先進国と新興国の成長格差、いわゆるTwo Speed Recoveryが常態化したことで、新興国に対する関心は一段と増している。投資の分野においても投資機会の乏しい先進国に比べ、高成長が続く新興国への期待は高まるばかりだ。そうしたなかでもベトナムは、アセアンの後発国として中所得国(世界銀行の基準による国民1人当たり年間所得が976ドル(約8万円)以上の国)に仲間入りしたばかりであり、その潜在性に注目する向きは多い。また、China+1、すなわち中国への投資集中を回避するための受け皿候補の一つでもある。
ベトナム経済の大きな魅力は、人口動態から見て労働力が増加を続けることが確実であることに加え、産業の高付加価値化の余地が大いに残っている点である。
総人口は10年の年平均で87百万人に達した模様だ。若年層の比率が高いため、生産年齢人口(15~64才)は総人口の伸びを上回るペースで増加している。長期推計に基づくと、総人口は2020年代前半に1億人を突破、生産年齢人口はそれに後れて2030年代半ば頃にピークである70百万人半ばに達すると見られる。
産業面では先行する他のアセアン諸国に比べ工業化、特に高付加価値の輸出産業の育成が進んでおらず、インフラなど諸条件の整備・改善による高度化の余地が大きい。現在の高成長はODA(政府開発援助)、FDI(直接投資)、越僑(海外在住のベトナム人)からの本国送金という3つの資本流入に支えられた内需主導のものだが、低廉な人件費や通貨(ベトナム・ドン)安を有利に活用できれば、輸出を梃子とした外貨獲得型の経済成長への転換も期待できるだろう。また、農林水産業の産出はGDPの2割だが、その就業者は全体の5割を占めることから、産業間の労働シフトも追加的な成長の源泉となり得る。
もっとも、発展段階であるがゆえのリスクも当然のことながら大きい。債務問題、インフレ懸念等を理由として、主要格付機関が昨年末にかけソブリン格付けを引き下げたように、短期的には不透明な要因を多く抱えている。また、政策運営における一貫性の乏しさや、官民問わず定着している透明性の低さ(地場企業の財務諸表は総じて信頼性に乏しいとされる)、未成熟な金融システム・為替制度などは投資家の立場から見れば潜在的なリスクとなる。さらに、相対的に大きな地下経済の存在が経済の効率性を損なっているとの指摘もあり、上述した産業構造の転換は投資環境の一段の改善なくしては進まないだろう。同国では1月に共産党首脳部の人事を刷新したばかりであり、今後の政治・経済面におけるリフォームに期待がかかる。
好悪あわせ持つベトナムだが、経済面での急速な発展に制度が遅行するというのは、同国に限らず新興国にとって避けられない一つのプロセスとも言える。言いかえれば、新興国を投資対象に加えるうえでは、こうした「新興国の常識」を十分理解する必要があろう。それさえ念頭におけば、やはりベトナムに代表される新興国のもつダイナミズムは魅力である。
コラム執筆:田川真一/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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