謹んで新春のお慶びを申し上げます。いよいよスタートした2016年相場は大いに波乱含みの展開となっており、今年も年明けから暫くは中国経済の減速、中東地域の地政学リスク、原油安などといった不透明材料を抱えながら、ときおり噴出する懸念材料に過剰反応し、リスク回避ムードが一気に強まる(ドル買い・円買いが優勢になる)といった場面を目の当たりにすることも少なからずあるものと思われます。

振り返れば、2015年のドル/円の「年足」は辛うじて陽線となったものの、ほぼ「十字線」と言える形状を為すこととなり、そこには相場の気迷いが色濃く映し出されています。また、年間の最安値=115.85円から最高値=125.85円までの値幅が僅か10.00円と、変動相場制史上において過去最小の値動きに留まったことも非常に印象的でした。

こうしたことから、市場関係者のなかには「2016年も狭いレンジ内でのもみ合いが続く」と見る向きも少なくはありません。確かに、日・米の金融政策の方向性の違いに目を向ければ、ここから大きく円高・ドル安基調へ転換すると考えることもなかなか難しそうですし、かといって前述した複数の不透明材料を考慮すれば、一段の円安が進むと考えることもたやすいことではないように思われます。

とはいえ、2015年のドル/円が記録的に狭い値幅での推移となったからこそ、逆に2016年は少々大きめの値幅になると考えることもできるものと思われます。今、多くの投資家が2015年のストレスやうっ憤を抱えていることでしょう。それだけに、今後はやや小さめの"材料"にも過度なまでに敏感な反応を見せる可能性があると考えられます。

数ある"材料"のなかでも特に注目しておきたいのは、一つにチャート・フェイスです。周知のとおり、ドル/円の週足ロウソクは先週まで2週連続して62週移動平均線(62週線)を終値で下抜けることとなりました。これまで本欄で幾度も指摘してきたとおり、これを明確に下抜けることは立派な弱気シグナルの一つとしてのインパクトを持ちます。

さらに足下では、あろうことかドル/円が2012年9月安値と2014年7月安値を結ぶ長期サポートラインまでをも明確に下抜けてしまいそうな状況となってきています。2012年の秋以来ずっとドル/円の下値を支えてきた極めて重要な節目であるだけに、これを下抜けることは「すでにドル/円は一時的な調整局面に突入している」との感触をより確かなものとすることになるでしょう。

いま一つの注目"材料"は、言うまでもなく米利上げのペースです。現在、市場では2016年中に米連邦準備制度理事会(FRB)は4回の利上げを実施すると見込む向きが多いようですが、それはおそらく「3カ月ごとに25bp(ベーシス・ポイント)ずつ」などという規則的なものではないでしょう。「2016年は米国経済の成長が加速する」としても、その成長カーブは時間が経つほどに鋭角になるのであって、当初は緩慢にさえ見えるのではないかと思われます。当然、「景気の後追いとなることが常」である金融政策での対応も、当初はかなり及び腰(ハト派的)に映るものと思われます。

その意味でも、2016年の前半はドル買い優勢の展開になりにくく、ドル/円は調整含みの展開を続けやすいものと見られます。逆に、年半ばから年末に向けては米国経済に成長度合いと米利上げのペースに弾みがつき、ドル/円は調整一巡からV字型で切り返し、大きく水準を切り上げて行く...というのが筆者の大まかな年頭所感です。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役