先週5日に発表された5月の米雇用統計が強めの結果であったことを受け、ドル/円は一時125.85円まで上値を伸ばす場面がありました。振り返れば、5月の半ば過ぎあたりからドル/円は一気に騰勢を強め、5月14日につけた安値=118.89円から調整らしい調整を交えることもないままに、あれよあれよと約7円もの上昇を見たのです。結果、さすがに足下の市場では、急激な値動き自体に対する警戒が強まっていることに加えて、ドル高の米国経済に及ぼす影響も徐々に懸念され始めている模様です。

週明け8日、前日のG7首脳会議でオバマ大統領が「強いドルは問題」と発言したとの報道がなされ、ドルは一旦大きく値を下げることとなりました。後に米ホワイトハウスとオバマ大統領は報道の内容を否定しています。真偽のほどは明らかではありませんが、少なくとも米国大統領が国際的に重要な会議の場で"誤って"不用意な発言をすることなどあり得ないものと思われます。仮に、そのような発言が実際にあったのであれば、それは"確信犯"的なものであると考えられ、発言がなかったのだとすれば、それは足下の市場心理が変則的な形で表面化したと考えればよいのだろうと思います。

いずれにしても、当面のドル/円相場には、ある程度の時間調整が必要になるものと思われます。場合によっては、一定の値幅調整を伴う可能性もないではなく、その点は注意が必要となるでしょう。細かな点に目を向ければ、昨日(9日)のドル/円が一目均衡表(日足)の「転換線」を久しぶりに下抜けてきたところが少々気に掛かります。

また、このところシカゴ通貨先物市場における大口投機筋(非商業部門)の円売り越し(枚数)が急激に増加していることにも注目しておく必要があるものと思われます。現在把握できるもので最新の6月2日時点では8万5693枚の売り越しとなっており、その前週の5月26日時点では6万2224枚、5月19日時点では2万2005枚でした。これを4月28日時点まで遡ると、わずかに5493枚の売り越しであったことがわかり、その後の円売り圧力がいかに強烈なものであったかを窺い知ることもできます。

言うまでもなく、シカゴ通貨先物市場における大口投機家という"短期筋"の売り越しが大きく膨らめば、近い将来においてそれを巻き戻す=円を買い戻す動きが強まりやすくなる可能性が高まります。もちろん、さらに一段と売り越しが積み増されることもあるわけですが、今後出てくる材料の内容によっては、それが大きく円を買い戻すきっかけとなる場合もあるということだけは、一応念頭に置いておく必要があるでしょう。

「材料」という点では、目先11日に発表される5月の米小売売上高、12日に発表される6月の米ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)の注目度が高いものと思われます。既知のとおり、5月の米雇用統計における非農業部門雇用数(NFP)の伸びからは米雇用情勢の改善度合いが強く伝わってきますし、実のところ、今週8日に発表された5月の米労働市場情勢指数(LMCI)も3カ月ぶりのプラス圏に浮上しています。

つまり、米雇用だけに関して言えば「やはり今年1―3月に見られた米国経済の停滞は一時的な例外であった」と考えることができそうであり、今後は「生産(製造)や消費の部分でも同様に考えることができるかどうかが注目される」ということになるわけです。その意味でも、まずは小売売上高や消費者信頼感指数などといった消費関連の指標結果を重要視し、それがFRBの利上げ判断にどの程度強く結びついて行くのかをじっくり考えることが必要と言えるでしょう。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役