J-REIT価格は、安定的な値動きとなっています。東証REIT指数は4月18日から続く1,700ポイント台での動きを続け、5月8日には終値で1,743ポイントまで上昇しました。当面は海外情勢に大幅な変動がない限り、節目となる1,750ポイントを意識した取引が続くことになりそうです。

さて今回は、5月1日に合併した(以下、本合併)積水ハウス・リート投資法人(証券コード3309、以下SHR)について記載していきます。SHRは名称の通り積水ハウスをスポンサーとする銘柄です。合併前のSHR(以下、旧SHR)はオフィスを主体とした総合型の銘柄、被合併銘柄となった積水ハウス・レジデンシャル投資法人(証券コード8973、以下SHI)は商業施設を1物件保有していましたが実質的には住居特化型でした。
旧SHRとSHIはともに資産規模(取得価格ベース、以下同じ)が2,000億円をやや超える銘柄であり、合併日にSHIが保有していた住居12物件の売却と6物件の取得後に資産規模は4,400億円弱となりました。SHRのポートフォリオは、用途比率で見ると住居の54%程度とオフィスの42%程度が中核となります。合併比率は旧SHR1:SHI0.825となったため、SHRは投資口を2分割しSHIの投資家の保有分が最低でも1口以下になることを回避しました。
本合併の背景として、合併公表日の1月24日に銘柄側は世界的には機関投資家の投資スタイルがパッシブ化していることを挙げています(※1)。投資家は運用コストが低廉な指数連動型への投資が主流になっているため、本合併によって時価総額を大きくすることで指数に占めるウエイトを高くする効果を図るというものです。
さて本合併による投資家のメリットですが、まずは1口当たり分配金(以下、分配金)が増加する点が挙げられます。合併日に公表された業績予想の修正では、合併期にあたる2018年10月期(第8期)に1,324円、2019年4月期(第9期)の予想分配金は1,496円となっています。第9期の予想分配金は合併公表日時点で開示されていた旧SHRの2018年10月期1,340円(分割調整後)及びSHIの2108年9月期の予想分配金1,333円(分割調整後)に対して共に10%以上増加するものとなっているのです。
また第8期の予想分配金は僅かですが、合併前と比較すると減少するかたちになっていますがこの決算期は合併報酬が発生することが主要因です。また第8期の業績予想には、前述の合併日に行った12物件の売却益18億円弱が含まれていません。
この物件売却は、合併前の時点で契約締結済であり、SHI保有資産であったため税務上では売却益となりますが会計上では売却益が発生しないという「税会不一致」が発生しています。この売却だけではなく、その他にも合併時には税会不一致が発生し未確定な部分があるため業績予想には織込まないものとしています。ただし、売却益は投資家に分配する方針を示していますので、第8期の予想分配金は大幅な上方修正になると考えられます。
さらに旧SHRの時点から保有する投資家からみれば、本合併はポートフォリオ分散効果が高くなるというメリットもあります。旧SHRは、資産規模が2,000億円を超えていましたが大型物件が多く6物件だけで構成されていたため分散効果が低い状況だったためです。通常オフィス系銘柄が合併した場合にはオフィス市況は好調な時には収益の増加効果が低くなるというデメリットも発生しますが、旧SHRの場合は長期固定賃料の契約が占める割合が高かったため、ポートフォリオ分散効果によるメリットが強く働くかたちになっています。
なお、SHRの投資口価格は、2018年4月期の分配落ちの影響もあり前月末からやや下落基調となっています。しかし上記の通り投資家にとってメリットのある合併であり分配金利回りも4%を超える水準になっていることから割安感があると考えられます。
一方で合併によるデメリットも考えられますので、その点については次回の連載で記載したいと考えています。

※1:2018年1月24日付「合併説明会資料」に拠る

コラム執筆:アイビー総研株式会社 関 大介

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