先週3日、NYダウ平均は節目の17000ドルを終値で初めて上回りました。折からの低金利とカネ余り&ヒト余りなどに支えられ、引き続きラリーが続くと見る市場関係者も少なくはありません。振り返れば、6月のFOMC後の会見でイエレンFRB議長は足下の米株価が「歴史的水準からかい離しているとは思わない」と発言。この発言が17000ドル台乗せの一助となったことは疑う余地のないところでしょう。
ただ、メディアの論調は全般にあまり楽観的ではないようにも思われます。6日付の日本経済新聞は「米株高、持続性が課題」とし、自社株買いなどが活発になる裏で設備投資は低迷し、生産性の足を引っ張っているという足下の状況を危惧していました。今後、米国で異例の金融緩和が徐々に巻き戻され、カネ余りが解消に向かうと見る向きは多く、イエレンFRB議長が述べている"金融危機の後遺症"が癒えたとき、長らく低位に押さえつけられていた米金利が急上昇し、米株価に一旦はまとまった調整が入るとの見方は必ずしも間違っていないものと思われます。
かねて、米市場では借入金による株式取引が空前の規模で行われており、今ネット上では「過去最高のマージンデッド(証拠金債務)は米株バブル破裂の前兆」などとする見解が目立つようになっています。鵜呑みにすることは憚られるものの、実際、下図に見るようにニューヨーク証券取引所(NYSE)が公表しているマージンデットの残高は、昨年の7月末に2007年7月末の3813億ドルを超え、今年2月末には4657億ドルとかつてない水準にまで膨張しました。
このことについて、今年2月にダラス連銀のフィッシャー総裁は「私の経験からは、これは危険な状況だと言える。この世の終わりが来るという意味ではないが、相場が反転する可能性を示している」と述べています。実際には、2月以降も米株相場は強気の推移を続けてきたわけですが、それは単に相場反転の「きっかけ」が得られなかったためであると考えることもできなくはないでしょう。今後何らかの「きっかけ」により、借入金に依存した膨大なポジションの巻き戻しが生じれば、米株価が急激かつ大幅に下落する可能性は否定し得ないものと言えそうです。
つまり、重要なのは「きっかけ」なのであり、その意味では今足下で着実に米量的緩和第算段(QE3)が幕引きへと向かっていること、これまでのペースで行けば10月にも債券購入規模縮小(テーパリング)が終了することは、一つのきっかけになりかねないものであると考えられます。前回の本欄で「秋の波乱」の可能性について触れた日本経済新聞の記事の一部をご紹介しましたが、やはりその可能性は安易に払拭し切れないものであると考えておく必要があるのではないでしょうか。もちろん、場合によっては秋よりも早い時期に一時的な波乱が生じる可能性も十分あるでしょう。
言うまでもなく、米景気が順調に回復し、米国のインフレ率や金利水準が正常化へと向かうことは大いに歓迎すべきことです。長い目で見れば、それは米株価やドルの一段の上昇につながることと思われます。ただ、いずれ米金利が本格上昇の局面を迎えたとき、それが単純にドル買い材料と見做されるかどうかは些か疑問であろうと思われます。米株価が調整局面を迎え、一時的にも金融市場が不安定化した場合、一旦は「リスク回避の円買い」に市場が傾く可能性もあるということは頭の片隅に置いておきたいところです。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役