「東京五輪招致決定」のニュースを受け、今週9日、10日の日経平均株価は2日合計(終値ベース)で560円余りの値上がりとなりました。五輪開催がもたらす経済効果には諸説あり、実際には「自ずと知れたもの」という声もありますが、人々が持つ「気」の部分にプラスの効果が働くことで、景気拡大、デフレ脱却、株高への期待が、足下で円安の流れを強めることに作用する可能性は十分あると言えるでしょう。

また、五輪がもたらす経済効果への期待は、いよいよ最終判断の段階に入った消費増税論議において「予定通り2段階で実施」との方向性を強めることにも貢献しそうです。そうでなくとも先週5日、日銀は景気の基調判断を「緩やかに回復している」に引き上げていますし、9日に内閣府が発表した4―6月期GDP・2次速報値(改定値)も前期比で実質年率+3.8%と、8月公表の速報値(年率+2.6%)から大きく上方修正しています。結果、消費増税論議の最終判断が「予定通り」とされる可能性はますます高まっており、そうなった場合には「景気の落ち込みを抑える経済対策も併せて公表する」と首相は明らかにしています。当然、市場には「日銀も協調的対応の検討に入る」との憶測が拡がり、そのことも円安地合いを強める一要因となり得るでしょう。

前回の本欄で述べたとおり、ドル/円は先週2日に重要なレジスタンスラインを明確に上抜け、同時に一目均衡表(日足)の「雲」をも上抜けたことから、すでに「第5波(=衝撃波)」の局面に入っているのではないかとの見方も浮上し始めています。前回は「当面は、長らくドル/円の上値を押さえていたレジスタンスラインが、逆にサポートライオンとして下値を支えるかどうかが一つの注目ポイント」とも述べ、その後に付けた直近(6日)安値は実際に前述のラインに下値を支えられる格好となりました。

一方、ドル/円がレジスタンスをブレイクした翌日の3日には、豪ドル/円の「ダブルボトム」も完成しました。下の図にも見るように、これは8月19日高値=90.13円の水準をネックラインとするもので、セオリーによれば「完成後はダブルボトム形成中の安値(ここでは86.41円)からネックラインまでの値幅(図中の矢印)と同じだけネックラインから上方に位置する水準が最初の目標」ということになります。

20130911_Tajima_graph.jpg

そして昨日(10日)、ついに豪ドル/円はセオリー通り「最初の目標水準」に到達。同時に、豪ドル/円は一目均衡表(日足)の「雲」上限をも上抜け、いわゆる「三役好転(=陽転)」の強気シグナルが点灯することともなりました。とりあえず、当座の目標に達したことで目先は上げ渋る可能性もありますが、すぐ上方には上向きの200日移動平均線(200日線)が位置しており、同水準はどうしても意識されやすいところです。

振り返れば、豪ドル/円は7月9日に一時的にも200日線を上抜けたことがありましたが、そのときは翌日から再び下げに転じ、結局は「明確に」上抜ける展開とはなりませんでした。仮に今回、この200日線を明確に上抜けてくるような展開となれば、その後の上値余地は大きく拡がってくるものと思われます。気になる中国の経済指標も最近は改善傾向が強まってきていますし、政権交代後の豪州経済の行方についても市場の期待感は強まってきている模様です。ここは、まず豪ドル/円が200日線を明確に上抜けるかどうかという点に注目しておきたいところと考えます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役