前回の本欄では日本の消費税率引き上げ問題に触れ、どのような最終判断になろうとも基本的には円安要因になり得ると述べました。なお、ここにきて首相周辺では、①予定通り2段階で引き上げる、②最初に2%上げ、その後1%ずつ引き上げる、③5年間で毎年1%ずつ引き上げる、④増税を当面見送る-の4案が検討されていると伝わっています。

以前から、麻生太郎副総理兼財務相は「予定通り2段階で引き上げるべき」と強く主張してきましたが、最近は例の"失言"で発言力が低下していると言われ、永田町では③の「5年間で毎年1%ずつ引き上げる」という案が最有力視されているとの声もあります。いまだ確たることは言えませんが、仮に増税スケジュールが変更となった場合、それを国際社会が好意的に受けとめるとは考えにくく(国際社会は①の「予定通り」を支持)、やはり外国為替市場は円売りで反応しやすくなるのではないかと思われます。

あとはドルが本来の力を取り戻して行くことによって、ドル/円も5月下旬から続く調整局面を脱することになると思われるわけですが、そのためにはやはりFRBによる量的緩和(QE)の規模縮小が実際に開始されることが重要です。詳しくは前回の本欄でも触れていますが、足下では「9月開始説」が有力となりつつあり、そうした見方を支援するものとして「早期に9月から始めるが、これまで想定していたよりも小刻みに実施する」という妙案が浮かび上がってきていることは大いに注目されます。

「早期に」開始すれば、もはや市場が様々な憶測によって不安定に揺れ動くといったケースも減るでしょうし、「小刻み」に実施すれば、新興国市場などから過度に資金が流出するといった動きもかなり抑えられることと思われます。何より、現在はドルが本来の輝きを失ってしまっていることで、些か理解しがたいユーロ高が進んでしまっています。これはユーロ圏の経済にとっては不幸なことです。

下図にみるように、ユーロを中心とした主要通貨に対する想定的なドルの価値を表す「ドルインデックス」は、7月初旬以来、大きく値を切り下げてきています。ただ、ここにきて過去の主要な安値を結ぶサポートラインが位置する水準まで下押ししたことで、そろそろ底入れの兆しが見られ始めるのではないかとの見方も浮上してきています。仮に、このサポートラインを下抜けた場合には、今年1月下旬に付けた安値が位置する79(ポイント)前後の水準まで一段と下押す可能性もありますが、いずれにしてもここからの下値余地は自ずと限られるものと見られます。

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そろそろ9月の声が聞かれはじめる時期となり、9月5日-6日に開催される主要20カ国・地域(G20)首脳会議や、9月9日に発表される日本の4-6月期GDP第2次速報値(改定値)、9月17日-18日の日程で行われるFOMCなどに対する市場の思惑も徐々に強まってくるところとなります。以前から述べているように、ドル/円の45-50週安値サイクルの見方からすれば、この8月下旬~数週間という時間帯のなかで主要な安値をつけて反発、5月下旬からの調整局面を脱出ということになるはずであり、やはり当面は相場の潮目に変化が生じるかどうかをしっかりと見定めることが求められるところと言えるでしょう。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役