先週5日に発表された6月の米雇用統計が強めの結果となったこともあり、市場では基本的にドルの強みが増しています。また、本日(10日)は前回のFOMC議事録の公開とバーナンキFRB議長講演が予定されており、その内容・結果に市場の関心は寄せられています。米雇用統計の結果は、単に量的緩和(QE)の早期縮小観測へとつながる「連想」に過ぎないわけですが、FOMCの議事要旨やバーナンキ議長講演は将来の政策行動へと実際につながる直接的なものです。よって、その内容・結果次第によっては一段とドル買いが加速する可能性もあります。

ただ、足下で進むドル高のペースは対価となる通貨によって異なります。市場で再びリスク回避的なムードが強まると、一時的にもリスク回避の円買いが強まる可能性もあることから、対ドルでのユーロや豪ドルの売りなどに比べて円売りは控え目です。本日(10日)の日本経済新聞朝刊にも「ドル買いの対価として円以外の通貨にも関心が分散している様子が浮かび上がる」との一文が記されていましたね。

このような状況下で何より気になるのは、やはり市場での取引量が他に比べて突出しているユーロ/ドルの行方です。その値動きからうかがえるユーロ/ドルの表情は、この一週間ほどで大きく変化したと言っていいでしょう。下図にも確認できるとおり、ユーロ/ドルは先週4日、一目均衡表(日足)の「雲」を明確に下抜け、翌5日には「遅行線」が日々線を下抜けてしまいました。図中には描画していませんが、それ以前に転換線は基準線を下抜けており、ここで『三役逆転』の弱気シグナルが点灯したことになります。

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さらに注目されるのは、昨日(9日)の値動きで重要な節目と見られていた1.2800ドルを割り込んできたことに加え、昨年11月13日安値と今年4月4日安値を結ぶサポートライン(赤線)を割り込んできたことです。このサポートラインは、昨年9月初旬あたりから形成されていたと見られる「ヘッド・アンド・ショルダーズ・トップ(三尊天井)」のネックラインと見做すこともできるものと思われ、仮にこのネックラインを明確に割り込んできたとするならば、その後の価格下落はある程度まとまったものになるものと考えられます。

もちろん、昨日(9日)だけの値動きでは確たることも言えません。振り返れば、今年5月半ばにも一度、ユーロ/ドルがネックラインに迫る水準まで押し下げたことがありました。しかし、結果的にはむしろネックラインが下値を支える格好となり、一旦は大きく反発しています。それでも、このネックラインを下回る水準で2日、3日続けて推移するようであれば、やはり「三尊天井は完成」と見做されることになるでしょう。

言うまでもなく、目下のFRBとECBが運営する金融政策の方向性は真逆の関係にあると考えられます。まして、ユーロ圏全体の景気は長期低迷が続いており、その出口はなかなか見えてきません。そうした状況下でユーロ/ドルが一段の下値を試す可能性があるということに何ら不思議はないでしょう。仮に、ここで三尊天井が完成すれば、少々長い目で見て昨年7月安値=1.2042ドルが意識される可能性は十分にあります。さらに同水準をも下抜けた場合には、図中の青点線矢印で示した値幅とほぼ同じ値幅で、ネックラインを下抜けた水準から値下がりすると考えるのがセオリーです。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役