2012年7月下旬に過去最低レベルに顔合わせした米国債の利回りが、8月に入ってかなり持ち直してきました。ことにドル/円との連動性が強いとされる米2年物国債(米2年債)の利回りは、下の図でも確認できるとおり7月下旬に0.2015%まで落ち込んだ後、急激に持ち直して現在は0.2700-0.2800%あたりにまで達しています。
これは、8月に入って発表された複数の米経済指標にやや強めの内容を示すものが少なくなかったことが一因と見られます。
例えば、8月3日に発表された7月の米雇用統計における非農業部門雇用者数の伸びは前月比+16万人超と、事前の市場予想を大きく上回る結果でした。また、8月14日に発表された7月の米小売売上高は「総合」ならびに「自動車を除くコア」ともに前月比+0.8%となり、いずれも今年3月以来の増加に転じました。
2012年7月の米小売売上高に関しては、7月の米国において観測史上で最高気温となる猛暑を記録したことや各小売店の値引き競争が全体を押し上げたという要因もありますが、同時に緩やかな雇用回復の傾向が感じられることや米株高による心理的効果、さらに欧州危機に対する過剰なまでの警戒が一服したことも大きいものと考えられます。
その結果、米2年債利回りは今年3月からのレジスタンスラインを試す格好となっており(図参照)、仮に同水準を明確に上抜けてくると米金利の上昇基調は一段と強まると見る市場関係者も少なくありません。
前述した通り、かねてから米2年債利回りの推移はドル/円の価格推移との連動性が強いとされています。しかし、7月初旬から同月下旬にかけては、米2年債利回りが急激に低下したにもかかわらず、一方でドル/円は比較的底堅く推移しました。お分かりのように、これは本邦政府・当局による為替介入への警戒が市場でいかに強いかを物語るものと言えるでしょう。
この介入警戒感に下値を支えられながら8月に突入したドル/円は、前述した米経済指標に見られる強めの内容や米株高、欧州危機への過剰警戒一服などによって米2年債利回りの水準が急激に持ち押してきたことを背景とし、2週間程度に渡って「ソーサー・ボトム」を形成してきたと見ることがきそうです。ソーサー・ボトムとは文字通り、平たいお皿のイメージで、その淵(ふち)にあたる部分=ネックラインは1ドル78.60-78.70円あたりに位置している(図中の青点線)と考えられます。
そしてドル/円は8月14日)、このネックラインを上抜ける動きを見せ、さらに15日は今年3月と6月の高値を結ぶレジスタンスラインを試す展開。今後、仮に米2年債利回りが前述したレジスタンスラインを明確に上抜け、米金利の上昇傾向が一段と強まれば、ドル/円の上値余地も大きく拡がる可能性があるでしょう。
その場合、ドル/円は一目均衡表(日足)の「雲」を意識し、同時に「遅行線」は日々線を上抜ける格好となる可能性もあります。こうした強気の条件が揃ったとき、当面の上値メドとなるのは6月25日高値の80.62円と見られます。実のところ、同水準(図中の赤点線)は週足ベースの一目均衡表において「雲」上限が位置しており、今年5月以降、大きな壁としてドル円の上値を押さえている水準なのです。
もちろん、本日もNY時間に重要な米経済指標の発表が控えており、その内容が捗々しくなかった場合、米2年債利回りやドル/円がそれぞれのレジスタンスラインに上昇を阻まれ、結局のところドル/円はソ―サー・ボトムのネックラインを明確に上抜けることができなくなる可能性もあります。ここは各指標の内容を慎重に見定めましょう。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役