2003年5月19日、この日私は朝の4時半からテレビに出ていました。フジテレビが半年間チャレンジした「めざビズ」というマーケット関連番組です。当社は企画段階から関わり、4月から9月末までの半年間、平日毎朝4時半から5時半までの生番組の制作に協力しました。私も毎週月曜日、恐ろしく早く起きて、出来れば3時半、遅くとも4時にはテレビ局に入り、デイリーのマーケット生番組ですから、内容を急いで確認・修正などし、4時半から1時間コメンテーターというかキャスターもどきのようなことを女子アナウンサーの方と二人でやってました。こう云っては何ですがフジテレビさんはマーケット関連はめっぽう弱かったので、当社や、或いは私以外の火曜から金曜までのコメンテーター兼制作アドバイス役のような方々は、或る意味で負担が大きく、しかしとてもとても思い出になる、楽しいプロジェクトでした。

その番組が始まって未だ1ヶ月半くらいの頃、2003年5月17日土曜日、政府はりそな銀行への2兆円規模の公的資金投入を決定しました。これは世界の金融史に当時未だかつてなかった大事件です。初めてのこと、そして未曽有の規模。週末の間はその評価は分かれていました。いや、評価が分かれていると云うよりも、確立した経済番組が週末にない国、そして時代ですから、週末の間は評価がほぼありませんでした。正確に云うと、是非論はあっても、それがマーケットに対してどういう意味を持つのか、マーケットがどう動くのか、についてのコメントも評価もほぼ無い状態でした。そして5月19日月曜日の朝4時半。地上波生放送の中で、私はこのりそな向け公金注入で株式市場がどう反応するかを聞かれ、上がるだろうとクリアに答えました。本件に対してマーケットが開く前にこうクリアに公共のメディアで発言したのは私が初めてだったのではないでしょうか?

株価は会社がうまく行かなかった場合、極端な例では倒産する場合の会社価値の期待値と、会社がうまく行った場合の会社価値の期待値などを合わせて、全体の期待値としての株価を形成している。公金注入によってダウンサイドがなくなるのであれば、期待値計算のマイナス部分がなくなるので、新しい期待値は高くなり、株価は上がる筈だ。確か私はそういう理論構成で説明した筈です。度胸が要りましたがそう云った4時間後に株式市場は開き、そしてそれから日本株は暫く上がり続けたのです。

昨日、この2003年5月19日と20日に開かれた日銀の金融政策決定会合の議事録が10年の期間を空けて公開されました。あの当時の空気が甦ってくる。綿密な議論が展開されています。あの日、そして翌日、こんな議論が日銀政策決定会合で行われていたのか。感慨深くもありますが、あの時点で、思ったよりも細かすぎる議論のようにも思えます(詳細は日銀のホームページからお読み下さい、但し長いです)。当時の中央銀行とマーケットの間の微妙な距離感を感じました。しかしもう10年かぁ。何が成長し、何が成長しなかったのか。良く考えてみたいと思います。