今回は、やはりユーロ/ドルの現状と今後の展望について触れておかないわけにはいかないでしょう。周知の通り、ギリシャは再選挙の実施を余儀なくされ、政府的空白が長期化することはもとより、緊縮財政策の継続やそれに付随する支援策の実施にも強い不透明感が漂います。一部では、ギリシャのユーロ圏離脱の可能性まで取り沙汰される始末。他方ではスペインやイタリアの信用不安、ひいてはユーロ圏全体への不安の拡散といったところまで、市場が織り込もうとする場面も見られ、当面はとても積極的にユーロを買い上がるムードではありません。

しかしながら、このような状況下にあって市場ではユーロ売りのポジションが相当に高く積み上がっていることも事実です。2012年5月8日現在、シカゴ通貨先物市場における大口投機家のユーロ売り越しは14.1万枚となっており、過去最高の17万枚超という水準に近いレベルにまで達してきました。よって今後、一時的にもポジションを巻き戻す=ユーロを買い戻す動きが見られても不思議ではありません。

また、これまで本欄では幾度か「ユーロ/ドルの値動きから確認される一種の規則性(パターン)」に注目しています。それは「各月の月半ばに当座の安値を付け、その月の月末から翌月月初にかけて反発する」というもので、下のチャートを見てもわかるとおり、確かに年初来の値動きにはそうしたパターンが確認できます。

そして、本日は2012年5月16日、月半ばとなります。果たして、この5月もこれまでのパターンが踏襲されるのか、それともついにこのパターンは崩れるのか、大いに興味の惹かれるところではないでしょうか。

ちなみに、本欄では今年1月下旬あたりから形成されていると考えられる「ヘッド・アンド・ショルダーズ・トップ(三尊天井)」にも注目してきました。前回、このフォーメーションに注目したのは2012年4月18日更新分でしたが、その時点では、まだ2月安値と3月安値を結ぶ「ネックライン」を明確に下抜けてはいませんでした。つまり、三尊天井は完成に至っていなかったのです。

しかし、5月第2週の週初、ついに「その時」は訪れました。5月7日、8日のユーロ/ドルは明確にネックラインを下抜ける格好となり、その後はセオリー通り、ある程度まとまった下げを演じる格好となっています。

さらに、昨日(15日)には、2月高値、4月高値、5月高値を結ぶ上値抵抗ラインとそれに平行するアウトラインとに囲まれた「下降チャネル」の下限をも下抜ける動きとなり、同時に1月安値から3月高値までの上げ幅に対する76.4%押しの水準=1.2828ドルをもあっさりと下抜けてしまいました。

このように、ギリシャをはじめ周縁諸国に対する市場の不安が一段と強まり、さらにユーロ/ドルが相場の「節目」を次々に下抜けてきた状況にあっては、これまで確認されていた値動きのパターンを踏襲できない可能性も十分にあるでしょう。

仮に、一段の下げが見られるようであれば、やはり当面は1月安値=1.2626ドルが意識されやすくなる者と見られます。また、2月高値と当時のネックラインとの間の値幅を5月7日時点のネックラインから下方にとった水準(チャート上、オレンジの点線矢印を出示しています)も当面の下値メドの一つと考えられます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役