● 3月20-21日のFOMCでは市場予想通り0.25%の利上げ、年内3回の利上げ予想も据え置き。しかし、4回以上の利上げを予想するメンバーは増加し、市場でもLiborの上昇が続いている。
● 一方、世界のドル建て債務は、リーマンショック後経済成長を大きく上回る規模で増加、現在の残高は史上最高の59兆ドル(6,300兆円)に上る。
● 1%の市場金利上昇は、これらの米ドル建て債務の利払い負担を最大63兆円増加させる。世界の経済規模からすればさほど大きな金額ではないものの、足元では、債券市場の新興国への不安感は高まっており、これらの国への投資には警戒感を高めておく必要がありそうだ。
米利上げ決定:今年利上げ回数は抑制的。上方修正の余地大
3月20-21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、誘導目標金利を0.25%引き上げ、1.50-1.75%とした。これ自体は市場予想通りだったが、今年はあと2回、合計3回の利上げ予想を据え置いたことから、ややハト派との見方も多かった。確かに、図表1にもみられるとおり、今年末の政策金利予想は、来年以降の予想に対し、低く抑えられた印象である。
このような金利予想の微妙な歪みは、今後、賃金やインフレ率の上昇ペース次第で修正され、結局今年の利上げ回数が4回となる可能性もあるだろう。
市場金利も上昇。史上高に膨張した世界のドル建て債務を直撃
政策金利の引き上げを受け、銀行等のドル建ての貸出の基準金利となるドルLiborの上昇ペースが加速している(図表2)。昨年からの上昇幅は1.1ポイントに上る(3/22時点)。政策金利の引き上げとともに今後も上昇することが予想される。
一方、ドル建ての債務残高は、リーマンショック以降増加を続けており、17年9月末時点で59兆ドル、約6,300兆円に上る(図表3。民間企業、個人、政府を含み、金融機関の債務は含まない)。リーマンショック時点から47%、2,000兆円の大幅な増加である。同じ時期の世界の名目GDPの上昇率は25%にとどまる。債務の返済余力としての付加価値の上昇以上に債務負担を増やしていることになる。
特に一部の新興国企業や高リスク国の企業では、企業が1年間に生み出す営業収益(operating surplus)に対する負債に対する比率が急上昇している(図表4)。背景には、世界的な金融緩和で銀行や債券投資家が高い利回りを求めて高リスク国や高リスク企業に対する貸出を増加させたことがある。
過去より重い利払い負担の増加幅:高リスク国の動向を注視
金利が上昇すると、債務者の利払い負担はどの程度増加するだろうか。
債務総額のうち、変動金利のものについては、市場金利の上昇に沿って利払い負担が増加する。固定金利の場合は満期まで金利は変わらないが、企業の場合、満期後にロールオーバーする場合もある。仮に債務総額全体が市場金利上昇に影響を受けると仮定すると、ドル金利が1%上昇した場合、世界の利払い負担額は63兆円増加する。
これには、ドル金利に連動して上昇する他の通貨の借り入れは含まれていないため、これらを含めれば影響は更に大きくなる可能性が高い。
新興国のリスクに対する市場評価を表すCDSは今月半ばから急上昇しており、債券市場は新興国のリスクを懸念し始めているようだ(図表5)。金利上昇局面では、特に財務が脆弱な国や企業から先に、利払い負担が増加したり、借り入れのロールオーバーに窮することが多い。
高リスクの新興国通貨等への投資については、警戒感を高めておいた方がよさそうだ。