-今週の日米政策決定会合については、各種指標等をみる限り、大きなサプライズは考えにくい。米国は0.25%の引き上げ、日本は、金利、資産購入のメド等の据え置きを予想する。

-日本の個人投資家は物価上昇に懐疑的。エコノミストの間では日銀の次の方向性は「引き締め」という見方が大勢を占めるが、個人が物価上昇を信じない限り、日銀はアクションをとりにくいだろう。

-日米の短期金利差は開く方向。だが、長期金利については、米国では足元の景気拡大ペースの鈍化で縮小も。ドル円レートの動きは限定的とみられるが、金利の動き次第ではやや円高に向かう可能性。

各国の金融政策の方向性:日本以外は早晩引き締めへ 今週は、日本、米国、英国で相次いで政策金利決定会合が開催される(図表1)。今回は、これまでの経済指標や当局関係者の発言から、サプライズ無しで「日本は金利、量的目標ともに維持、米国は、0.25%の引き上げ」と予想される。なお、年初に利上げ予想も出ていた英国は、政治的混乱などから、変更は先送りで、政策は維持される方向とみられる。

日本:注目点は景気判断の表現

日銀の景気判断は、4月の前回会合で「緩やかな拡大に転じつつある」と上方修正され 、約9年ぶりに「拡大」という表現が盛り込まれた。今回の会合では、景気判断の表現をどのように修正するかが注目される。もっとも、景気は、国内消費が盛り上がらない分"海外頼み"であり、先行きが読みにくい。しかも4月に上方修正したばかりであることから、今回大きな調整は考えにくいだろう。

米国:注目点は、中央銀行の資産縮小の具体策、懸念要因への言及

市場では、イエレン米連邦準備理事会議長が、これまで積み上げてきたバラスシートをどう正常化(縮小)するか、その時期や規模について言及するかどうかが注目されている。しかし、現時点では、国内の政策の混乱、欧州(特に英国)の不透明性から、そこまで具体的なタイミングや規模は示しにくいだろう。12月、3月に次いで、今回6月と、四半期ごとに0.25%ずつ、着実に利上げを続けるだけでも十分なペースともいえる。

また、先行き見通しについて、どのような点をリスク要素として挙げるのかも注目される。例えば、直近の期待インフレ率の低下(図表2)や雇用者数の伸びの鈍化、海外の政治経済情勢など、何らかのリスクの増大について言及されると、9月の利上げ予想の低下に繋がりうる。

今後の方向性

今後半年程度で見ると、日本以外は概ね金融引き締めの方向性が示唆されている(前掲図表1)。米国では、9月か12月の再利上げ(当方では12月を予想)、カナダでも中銀幹部から利上げの方向性が示唆されている。欧州も、先週のECB理事会で、インフレ見通しは下方修正されたものの、追加利下げは打ち切る方針が示され、出口への"地ならし"が始まった。

一方日本については、超緩和的な金融政策が維持されることが予想される。依然として消費者物価が低迷し、上昇への不信感が根強いためである。

弊社が5/29~6/2に個人投資家向けに行ったアンケート調査では、消費者物価指数に対する見方は引き続き慎重だという結果が出た。「日銀はインフレ率2%達成を「2018年度頃」としていますが、達成できると思いますか?」という問いに対しては、前回調査同様、7割以上の高い比率の回答者が「達成できない」と回答している(図表3)。

また、金融政策のインフレ期待形成に対する貢献についても、「貢献していない」という回答が半数近くに上り、「貢献している」という回答の3倍近かった(図表4)。

これらの予想を反映し、次の金融政策は「緩和方向」という予想が「引き締め方向」という予想とほぼ拮抗している(図表5)。これは、ブルームバーグが市場のアナリスト・エコノミスト向けに行っている調査で「引き締め方向」が圧倒的であることと対照的である(図表6)。個人の方がより低インフレの実感が強く、結果として引き締めは時期尚早と強く感じている様子が伺われる。

もしこれらの個人の感覚を日銀が正しく捕らえていれば、引き締めと取られるような行動も表現も、まだ封印しておくだろう。逆にもし現時点で引き締めの方向性を示した場合、個人の投資消費マインドの落ち込みが懸念される。

仮になんらかの政策変更が取られた場合、市場への影響はどうか。個人投資家アンケートによれば、以下の施策がとられた場合、投資に対してポジティブになれるとしている(図表7)。

第一位は「マイナス金利の停止」という回答である。これは金融引き締めになるので、理論的にはマインドを冷やすはずだが、「その施策がマインドを冷やした」ため、「良いニュースとして市場に好感されそう」ということで期待されているようだ。

米国:会合後、9月追加利上げの確度次第:足元では追加利上げの強いメッセージは出しにくい環境

今週の利上げは殆ど"所与"のものだとしても、今後の追加利上げの時期については市場の意見は分かれている。最も多いのは、「9月」であるが、今回の会合後、この早期追加利上げの期待が拡大すれば、金利は上昇し円安・ドル高方向に向かうだろう。

しかし、前述の通り、足元では若干国内市場にも弱い動きが見えている。潜在成長率などから算定される「自然利子率」(中立的な金利)も低迷している。9月に向けて利上げ方向を強く示すような発言は出しにくい環境だと考える。

日米政策決定会合後の金利、為替の動きは?

想定通りの米利上げ・日銀政策維持に加え、米国の9月の追加利上げ期待が低下した場合、このところの米国の金利持ち直しの動きに水をさすだろう(図表8)。日本の金利も緩やかながら上昇傾向にあり、金融政策決定会合後には、米国の9月利上げ期待が維持できなければ、若干円高ドル安に触れる可能性があるだろう(図表9)。

金利など政策会合の"結果"については見どころは少ないものの、声明文やコメントなどのニュアンスには十分注意を払いたい。