今日、証券市場を活性化するにはどうしたらいいかとの質問を受け、それに対して答えた内容があるので、5回に分けてシリーズで御案内したいと思います。

その1は「政府の意志」、その2は「個人金融資産と国のバランスシート」、その3は「日本の個人投資家は賢い」、その4は「日本の株はなぜ安いか」、そして最終回その5は「トレーディングと流動性」です。今日は第一回「政府の意志」です。先ずはこの文章を読んで下さい。

『日本では長きにわたり貯蓄促進が重要な政策目標であった。経済全体として資本不足の時代には、政策的優先度に応じて産業に資金を供給することが金融システムの課題であり、そこで資金仲介の大宗を担ったのは銀行である。資本が十分に蓄積された現在、ライフステージに応じ可能な限り有利に運用したいという個人の希望に応えるためには、魅力ある多様な運用対象を、的確な情報とともに、これに投資する知識を備えた個人に提供する必要がある。また、今後、何が21世紀の日本のリーディング産業になるのか不透明な状況下で、リスクマネーの効率的かつ積極的な供給を促し、日本企業の発展を金融面から支えていかねばならない。銀行のリスク負担能力が限界に達しつつあるなかで、強靱で高度なリスクシェアリング能力を持った市場中心の金融システムに再構築していくことが日本経済の発展にとって不可欠であり、そのためには、資金を供給する個人の意識変革を政策として遂行していく必要がある。』

これは2003年12月24日に、首相に対する諮問機関である金融審議会が「市場機能を中核とする金融システムに向けて」と名付けて提出した報告書の一部です。ここには正確な事実認識、時代感覚と、素晴らしいヴィジョンがあります。今から5年以上前のことです。

証券市場の活性化は、それ自体が目的ではなく、この文章に書かれたような問題意識の中で、日本経済の活性化・現代化と云う目的の中での必要条件として捉えられるべきです。残念ながらこのような問題意識や意志が、6年前のクリスマスイブをピークに下がってきてしまった。それが証券市場が抱える問題の根本的な遠因だと思います。その結果どのようなことになっているのか?次回は「個人金融資産と国のバランスシート」について書きます。