正方形の部屋が好きです。と云っても、寝て暮らす部屋のことではなく、食事をする店の個室のことです。小さな、二人用の正方形の間。あれは二畳かと思ったら、実は四畳半あるようですが、掘り炬燵式の、二人で使うのにちょうどいい密室を、昔から愛用しています。しかしそのような個室はどこにでもある訳ではなく、見つけるのにひと苦労しますが、一旦見つけると長い付き合いになり、様々な思い出を重ねていくことになります。
因みにこれは商談用の空間であり、相手は常に男性、しかも年上の男性です。今迄にいくつもの重要な会話を、このような正方形の部屋で食事をしながら行い、そしてそれらは鮮明に記憶に残っています。会話の内容が特別に印象的であったのかと思い返すと、どうもそうではない気がします。小さな正方形の空間が、相手を視界の真ん中に、しかも閉鎖された空間全体が常に視界に入る中で、その真ん中に据えます。かつ、相手との距離は至近距離です。そのセッティングが、ヴィジュアルな印象を強くし、その結果、会話の内容をも鮮明に刻むのでしょうか。
古都の作り方や、風呂敷、折り紙。そもそも日本人は、正方形との縁が深いようです。これからもまた、正方形の小さな部屋で、歴史を作っていくのだと思います。