永世棋聖の米長邦雄さんと対談をしました。誰と会っても殆ど緊張することを知らない私ですが、何故か今日は流石に緊張しました。

対談が始まろうとする時、先ずは簡単な露払い的な会話が始まったかと思うや、それは既に対談の始まりでした。その間合いの詰め方は、やはり勝負師を感じさせるものでした。優しいようで目つき鋭く、将棋のことが頭から離れないようで、例えば株式市場にも詳しく、捉え所がない幅広さと奥行きを感じました。極めて論理的な考え方をされるようで、私が論理的に話を出来ないと微かに眉をひそめられるように見え、論理的に組み直してもう一度話すと、すぐさま質問を問いかけられます。緊張感の中に清々しさのある、素敵な対談でした。

対談の中盤、米長さんが「この会社の今までとこれからが読めた!私は将棋指しだから先が読めるのです。」と仰いました。「これからどうなるか教えて下さい。」と聞くと、「これから更に伸びていくでしょう。しかしこれからは世の中の流れに合わせて行かなければいけない面も出てくるでしょう。」と答えられました。鋭いようで汎用的であるようで、流石名人です。私は元がトレーダーであった為か、阿佐田哲也さんのような勝負師の小説も好きですし、米長さんのような正に勝負師そのものの方とお話しするのも好きです。勝負の勘、間合いは、常に鉄火場というか試される場所にいないと鈍るものなので、気をつけたいものです。

対談の終わりに、将棋盤と駒が出て来ました。一手だけでも指させて頂こうかと思ったのですが、流石に恐縮して、駒を並べるだけで終わりにしました。帰り際に握手すると、柔らかくもなく、特別な力もなく、あくまでも普通の掌だったのが印象的でした。