取引所の在り方の議論は、中々難しい問題を内包しています。今話題になっている事というと、上場審査部門を取引所から独立させるべきか否かという点と、カネボウのようなケースに上場廃止基準を緩和すべきか否かという点です。本件は様々な論点があるので、何を言っても必ず合理的な反論がありそうですが、敢えて私見を簡単に書きたいと思います。

先ず上場審査部門の独立ですが、どの会社を上場させ、どの会社を上場廃止するかは、取引所の機能として最も肝要な部分ではないでしょうか。円滑なシステムや情報の充実などは当然のことであって、それは取引所のカラダの部分です。取引所の審査部門こそ、その脳の部分でしょう。私は個人的には、東証のブランドは、そのシステムにではなく、その審査能力にあると考えています。上場させるために最も価値のある部分を離脱させるというのは、私には納得できません。

ひとつの考え方として、「カラダは複数、脳はひとつ」、というのもあります。全国の取引所の審査機能を一所に集めてしまうという考え方です。しかしその場合、それぞれのカラダにどれだけの意味があるでしょう?物理的に立会場を開いている訳ではない現代に、というかそもそも物理的に取引所に来なければ取引が出来ない訳ではない現代に、審査機能を除いた機械的インフラとしての各取引所に、それぞれの個別に意味があるとは思えません。

金融庁による上場廃止基準緩和要請に対して、東証はNO、大証はYESと答えました。金融庁は、これもひとつの市場間競争だと言うでしょう。しかしこの場合、例えばカネボウは東証では上場廃止され、大証では上場維持されるような事態が発生します。投資家、特に個人投資家からしてみれば、何とも不透明で、CONFUSINGな話です。そんな半端な状況を、金融庁は本当に望んでいるのでしょうか?

以前から私は、企業間競争のプラットフォームである取引所の市場間競争は必要ない、意味がないと考えてきました。これは何種類ものJISやISOがあるようなものです。新興市場の誕生には多大な意義がありました。しかしこれはJISやISOに替わる新しい基準ではなくて、JISやISOの中の新しい番号のようなものです。百歩譲って市場間競争に意味があるとしても、ならば上場審査機能は、各取引所に固有のものとなるべきでしょう。そのことと、取引所の中に審査部門を維持しながら、しっかりとウォールを立てて牽制することの間に、新たなコストやポジションの創造以外に違いがあるのでしょうか。
冒頭に申し上げたように、本件には色々な考え方があり、ダイナミックにリアルタイムに議論しないと揚げ足取りのようになってしまいます。なので発言は憚れたのですが、事の行方が不安になり、敢えて言わせて頂きました。