金融列伝2番目の登場者は、やはり私が最初に勤めた会社の先輩のNMさんです。第1番登場者のTKさんは、額を決めずに或る債券を売った強者だった訳ですが、NMさんはその逆のパターンです。
或る日、会社のロンドンオフィスが新規発行の債券を引き受けました。大体こういったディールは東京時間の夕方頃に決まるのですが、急に東京オフィスは騒がしくなります。ロンドンと繋がっているスピーカーから、この新発債(シンパツサイ:新規発行債券のことです)を売ってくれという大きな声がひっきりなしに流れ始めます。当時、東京オフィスでその債券を担当していたのはエリックというアメリカ人だったのですが、エリックも債券営業デスクに対してハッパを掛けていました。NMさんは、この手の新発債を売る天才でした。
回りが騒々しい中でじっと電話を握ってお客様(機関投資家)と話していたNMさんは、電話を切ると同時に立ち上がり、いやむしろ身体を捻ってエリックが座るデスクの方向に向かうように立ち上がりながら電話を切り、凄い勢いで走り出しました。走りながらエリックに向かってNMさんは大声で叫びました。「1億ドル(当時の為替レートで140億円程度でしょうか)売ったぞ!」
エリックに限らず、フロア中が走るNMさんに注目しました。そこでNMさん更に叫ぶ。「フワッツ・ザ・クーポン!(クーポンは?)フワッツ・ザ・マチュリティー!(満期は?)フーズ・ザ・イシュアー!(発行体は?)」
・・・・・これまた一同唖然です。当時のその会社には、様々な怪物が居たのでした。