視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚。人それぞれに鋭いもの、鈍いものがあったり、或いは国民性によって得意分野が違ったりもします。例えば日本人は相対的に味覚が優れていると思いますし、私が一番鋭いのは聴覚か嗅覚だと思います。人のアクティビティの種類によっても、メインとなる感覚は異なります。生産とか興奮は視覚に最も関係がありそうですし、幸福感とか懐かしい感覚は、触覚や嗅覚に強い影響を受ける気がします。古今集では「何かを見て心が動く」というように視覚が中心ですが、音を聴いて季節の到来を知ったり、匂いを嗅いで昔の恋人を思い出したりもします。しかし、私の記憶する限りでは、味覚や触覚に触発されて詠まれた歌はありません。古代の人は味覚や触覚が劣っていたのでしょうか。いやそうではなく、味覚・触覚は露わすぎて、歌にするには品があまりよろしくないと思われたのでしょう。見えないもどかしさ。聴けないもどかしさ。嗅げないもどかしさ。味わえないもどかしさ。そして、触れないもどかしさ。五感の中で、触覚は最も人間の根底に近い部分のものである気がします。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。