総選挙が近い。マニフェスト選挙などというが、空論を言っているようで興味が沸かない。空論の是非を論ずる前に、私の専門分野である金融の観点から小泉政権の実績を再点検しておきたい。
小泉政権には三つのステージがあった。第一ステージは政権誕生から昨年の今頃迄で、小泉首相は念仏のように構造改革を唱え続けた。これが、企業から個人にいたるまで全国に構造改革の必要性を認識させた。ところが政権は実際には何もしなかった。あてに出来ない政府を横目に、民間が自ら構造調整を進めた。政府が構造改革に直接手を出すと、いびつな形に改造したり、新たな利権を生み易い。民間に構造改革を委ねた結果、幅広く、偏らず、効率よく構造調整は進んだ。政府は何もしなかったというより、意識改革という最も重要な改革をまず行ったと言えるのではないか。

第二ステージは、一年前に発足した改造内閣で竹中大臣を中心に行った金融改革である。政権は例外をなくし規律を導入した。パンクしたタイヤを膨らますには、まず全ての穴を塞がなければいけない。カネは空気同様極めて流動性が高いから、金融改革でも、まず例外をなくすことが肝要である。メガバンクを聖域とせず、ルールに触れれば国有化も経営陣退陣もあるという規律の導入は銀行界の大反発を食った。しかし銀行は先生に叱られる生徒のように、反発と自省の中で競争力を取り戻すきっかけをつかみ、却って大いに恩恵を受けたのではないか。

第三ステージは「りそな処理」である。構造調整が進み、金融システムの例外的「穴」が塞がれた後の二兆円の公的資金投入は効いた。海外勢にとって、日本の金融システム不安は、日本という「国」に対するものではなく、個別行が倒産するかも知れないという不安だった。国内では、「銀行は全体がコストを負担しても守る」のが暗黙の了解で、りそな処理も国民は容認した。海外勢も、りそな処理によって、個別行の倒産リスクと日本という国の信用リスクが等しいことを納得し、日本の信用も回復した。公的資金注入に批判的な市場主義者も、実利を取って歓迎する結果になった。倒産の可能性がないと考えられた大手銀行株は大幅上昇を始め市場全体の起爆剤となり、東証上場企業の時価総額は百兆円ほど増加した。今となっては、効率のいい二兆円だったと言える。
こう考えると、小泉政権は金融市場にとって、いい政策を打ってきたことになる。確かに小泉金融政策は弱者に配慮が足りないとの批判はある。中小企業の倒産、失業の増加など様々な問題があるのは事実で、それは課題である。しかし政策は全体をパッケージとして評価すべきだと思う。
少なくとも金融政策に関しては、もっと高く評価されてもいいのではないか。私は小泉首相という人物を手放しに支持する気は毛頭ない。政治家は政策と実績を是々非々で評価すべきで、丸ごと受容するのは危険である。私は小泉金融政策の実績を評価するが、今後重要なのは将来へ向けた政策である。政治は権力闘争であってはならないし、目前にある問題に対処するだけでもいけない。政治家は将来の世代に対して最も重要な責任を負うべきだと思う。後世にどんな社会を残すのか、本当の政策論議を展開して欲しい。