一般にビジネスは相手、即ちお客さんが満足するか否かが重要ですから、『受け手の価値観』が軸となるのに対し、アートは創り手の価値観で作品が創られ、或る意味で一方的に提示され、場合によっては何年も経ってから認められることもあり、そういう意味で『出し手の価値観』が軸となるものだと思っています。
そう考えると料理はビジネスでしょうか、アートでしょうか?通常、料理人は、食べる人を予め見たりしません。相手を見ないから、即相手の価値観を軸としていないとは言えませんが、味覚は体調にも大きく左右されるものですから、その人を見ないで創られる料理は、どちらかと言うと料理人の価値観によって創られ、食べ手に提供されているような気がします。洋食の類はそういうものが多いですが、蕎麦でも蕎麦屋は勝手に打って、勝手に出してきます。そんな中で、鮨は別です。鮨は、握り手が食べ手の顔色を見ながら、種類、順番、味付け、大きさを変えることが出来ます。蕎麦と鮨を比べると、蕎麦屋が家内制手工業、鮨屋は職人芸のように感じますが、実は蕎麦の方がよりアートで、鮨の方がよりビジネスということでしょうか。やはり一番いいのは鮨屋のお客さんですね。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。