ロボアドバイザーが広げた「おまかせ」という選択肢
「投資には興味がある。でも、何を買えばいいのかわからない」
そんな人にとって、資産運用を始めるきっかけの一つとなったのが、ロボアドバイザーです。
日本でロボアドバイザーが本格的に登場したのは2016年。スマートフォンの普及やFinTechへの期待を背景に、資産運用をオンラインで完結させる新しいサービスが相次いで誕生しました。
それから10年。
ロボアドバイザーは、単に投資の一部を自動化しただけではありません。「投資は自分で銘柄を選ぶもの」というそれまでの常識を変え、資産運用そのものを、より身近なものにしてきました。
では、この10年で日本人の資産形成はどのように変わったのでしょうか。
2016年、日本に「ロボアド」が登場
2016年は、日本のロボアドバイザー市場にとって大きな転換点となった年です。
THEOが2016年2月にサービスを開始したのをはじめ、WealthNavi、そしてマネックス・セゾン・バンガード投資顧問の「MSV LIFE」(現在はマネックス・アセットマネジメントが運用する「ON COMPASS」に名称変更)など、異なる特徴を持ったサービスが相次いで登場しました。
それまでの資産運用では、「自分で選ぶ」ことが基本でした。
どの投資信託を買うのか。株式と債券をどのくらい組み合わせるのか。相場が大きく動いたときにはどうするのか。
こうした判断を、自分自身で行う必要がありました。
そこに登場したのが、ロボアドバイザーです。
いくつかの質問に答えることで、自分のリスク許容度などに応じた運用プランが提案され、資産配分や売買、リバランスなどを自動で行ってくれる。
「投資について詳しくなくても、資産運用を始められる」という新しい選択肢が生まれました。
主なロボアドバイザーサービス
THEO
一人ひとりの年齢や資産状況などに応じて、複数の資産クラスを組み合わせた運用を提案。
投資を単なる金融商品ではなく、スマートフォンで利用するデジタルサービスとして捉えるきっかけにもなりました。
WealthNavi
「長期・積立・分散」を軸に、世界中の資産へ分散投資するスタイルを広げたロボアドバイザーです。
「忙しくて投資に時間をかけられない」という働く世代にとって、資産運用を自動化するという考え方を広く知らしめました。
ON COMPASS
「資産をいくら増やすか」ではなく、「そのお金で何を実現したいのか」というゴールから資産運用を考えるゴールベースアプローチを特徴とするロボアドバイザーです。
長期・分散を重視する米国の資産運用の考え方を日本に取り入れ、一人ひとりのゴールに応じた資産運用プランの作成から、その後の運用までをサポートしています。
※マネックス・アセットマネジメントが提供する「ON COMPASS」の前身サービスは、2016年に「MSV LIFE」としてスタートしました。その後、2020年に「ON COMPASS」へと名称を変更しています。
ロボアドが登場する前、資産運用は「自分で選ぶ」が基本だった
ロボアドバイザーが登場する以前、資産運用にはいくつかのハードルがありました。
銀行や証券会社で担当者から商品提案を受ける。
自分で投資信託や株式を比較して購入する。
雑誌や書籍、新聞などから情報を集める。
そして、資産配分やリバランスについても、自分で判断する。
もちろん、専門知識を持って投資を楽しむ人にとっては、それも資産運用の魅力の一つです。
一方で、「何を選べばいいのかわからない」「忙しくて運用を続けられない」という人にとっては、始めること自体が大きなハードルでした。
特に日本では、長く預貯金中心の資産保有が続いてきました。
「投資は一部の詳しい人がするもの」。
そんなイメージも、決して珍しくありませんでした。
ロボアドが変えたこと
では、ロボアドバイザーの登場によって何が変わったのでしょうか。
一つは、「投資を始めるまで」のハードルが下がったことです。
これまで専門的な知識が必要だった資産配分やリバランスを自動化することで、「投資をしたいけれど、何から始めればいいかわからない」という人でも、資産運用を始めやすくなりました。
そして、もう一つ大きな変化があります。
それは、投資を「予想するもの」から「続けるもの」へと捉える人が増えたことです。
ON COMPASSの運用に携わってきたマネックス・アセットマネジメントのセールス&マーケティング部の浜田氏は、10年間を振り返ってこう話します。
日本でロボアドバイザーが本格始動してから10年で資産運用のハードルは下がりました。以前は投資することは専門知識と手間を要するものでしたが、投資家のリスク許容度に合わせた国際分散投資を行える仕組みは、投資未経験層を中心に広く浸透しました。また、この10年はマイナス金利導入やコロナショック、新NISAの開始など市場環境が激変した期間でもあります。
その中で、一時的な相場変動に一喜一憂せず、 「ゴールベース・アプローチ(人生の目標に合わせた資産運用)」のもと、長期・積立・分散投資を継続できるパートナーとして、多くの投資家に選ばれ信頼を築いてきました。「資産運用をおまかせする」という新たな価値を社会に定着させた10年だったと感じています。
もちろん、ロボアドであっても投資である以上、元本が保証されるわけではありません。
それでも、「自分で判断し続ける」という従来の投資スタイルだけではない選択肢が生まれたことは、日本の資産形成にとって大きな変化でした。
この10年で「当たり前」になったこと
ロボアドバイザーの普及だけが、日本の資産形成を変えたわけではありません。
この10年には、NISA制度の拡充やスマートフォンの普及、オンライン証券サービスの進化など、さまざまな変化がありました。
その結果、今では次のようなことが、以前よりも身近になっています。
・ スマートフォンから資産運用を始める
・ 少額から投資を始める
・ 世界中の資産へ分散投資する
・ 積立投資を長く続ける
・ NISAを活用して資産形成する
・ 自分で商品を選ぶだけでなく、おまかせ運用を選択する
・ 資産運用を老後資金だけでなく、人生設計の一部として考える
特にNISA(少額投資非課税制度)は大きな変化の一つです。
2014年に始まったNISAは、2018年につみたてNISAがスタートし、2024年には制度が大きく拡充されました。非課税保有期間が無期限となり、長期的な資産形成に取り組みやすい制度へと変わっています。
こうした環境の変化と、ロボアドバイザーをはじめとする金融サービスの進化が重なり、「投資をする」ということ自体が、以前よりも日常に近づいてきたと言えるでしょう。
「いくら増やすか」から「何のために運用するか」へ
資産運用が身近になる一方で、次の課題も見えてきました。
それは、「投資を始めた後、何のために資産をつくるのか」ということです。
資産形成では、つい「いくら増えるか」に目が向きます。
しかし、本来、お金そのものが人生の目的になるわけではありません。
住宅を購入したい。子どもの将来に備えたい。いつか夫婦で旅行を楽しみたい。働き方を変えたい。老後も自分らしい生活を送りたい。
人によって、必要なお金も、目指す未来も違います。
ON COMPASSの開発・運用に携わるマネックス・アセットマネジメントのセールス&マーケティング部の浜田氏は、ロボアドの次の10年について、以下のような見方をしています。
次の10年でロボアドバイザーは、「単なる自動の運用ツール」から「ライフスタイルに寄り添う包括的なサービス」へと進化します。NISAの定着により資産運用の普及が進んだ今、求められるのは個人の人生設計に応じた高度な最適化です。
今後はAI技術のさらなる向上に伴い、単なる資産運用にとどまらず、現役世代のゴールにあわせた資産形成からリタイアメント期の取り崩し戦略まで、ライフステージに合わせたパーソナライズが深化していく必要があります。テクノロジーの力で誰もが安心して豊かな将来を描ける社会の実現に向け、私たちはさらなる価値を提供し続けてまいります。
これは、ロボアドバイザーの役割が「投資を簡単にする」だけではなく、「人生と資産運用をつなぐ」方向へ広がっていることを示しています。
次の10年、資産運用はどこへ向かうのか
2016年、「投資をもっと身近にする」という新しい選択肢として登場したロボアドバイザー。
そこから10年で、日本人の資産形成を取り巻く環境は大きく変わりました。
スマートフォンで投資を始める。積立を続ける。世界へ分散する。NISAを使う。そして、自分で一つひとつ判断するのではなく、「おまかせする」という選択肢を持つ。
これらは、かつては特別だった資産運用を、少しずつ日常のものへと変えてきました。
そして次の10年は、さらにその先へ進むのかもしれません。
「投資を始める」から、「人生の目的に向かって、安心して続ける」へ。
「お金を増やす」から、「お金を使って、どんな未来を実現したいのか」へ。
資産運用がより身近になった今だからこそ、一人ひとりの人生にとって、お金にはどんな意味があるのかを考えることが大切になりそうです。
2027年1月からは、NISAのつみたて投資枠の対象年齢が0~17歳にも広がることが決まっています。子どもの将来に向けた資産形成について、家族で考える機会も増えていくでしょう。
ロボアドバイザーが切り拓いた「資産運用を身近にする」という10年間。次の10年は、資産運用を「人生をよりよくするための手段」として、どこまで私たちの暮らしに根づかせていけるのか。その進化は、これからも続いていきそうです。
