円安は止められるのか、止められないのか

日本の通貨当局は、ゴールデンウィーク中に約11兆円の米ドル売り・円買い介入に動いた。これは、160円を大きく超える円安はもはや日本経済にとって好ましくないと、収益的ではプラスとなる輸出企業も含めて多くが考えているという判断が大きい。簡単な言い方をすると、「日本経済にとって悪い円安」なので止めないといけないということだろう。

ただこれに対しては反論も多いだろう。「日本経済にとって悪い円安」と言っても、円安の背景が、相対的に低い金利や財政規律への懸念、日本経済の国際的競争力の低下など、短期的に解決が困難なものである以上、それを止めるのは難しいとの考え方は強そうだ。

購買力平価から異常にかい離した円安

上の2つの考え方の違いを説明する手がかりになりそうなのが、ファンダメンタルズとの関係ではないか。前者は「ファンダメンタルズからかい離した円安」と考えているのに対し、後者は「ファンダメンタルズを反映した円安」と考えているのだろう。ではどちらが正しいのか。

ファンダメンタルズと為替相場の関係でよく引用されるのは購買力平価だろう。その購買力平価は、日米の消費者物価で計算すると、足下では105円程度になる。1973年の変動相場制度移行後で、実勢相場が消費者物価購買力平価をこれほどまでに円安方向にかい離したことはなかった(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円と購買力平価(1973年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

このように購買力平価から大きくかい離した円安が広がったのは2022年頃からだ。普通に考えると、ほんの4~5年でのファンダメンタルズが大きく変化するとは考えにくい。そう考えると、足下の円安はファンダメンタルズから異常にかい離した「悪い円安」とい言えるのだろうか。それとも、2022年頃から為替市場が日本経済のファンダメンタルズの悪化に急に気づいた結果が、この購買力平価から異常にかい離した円安になっているのか。

1995年の米ドル安との類似=購買力平価からの異常なかい離

足下の米ドル/円は、消費者物価購買力平価を5割程度上ぶれたものになっている(図表2参照)。1973年以降、実勢相場が購買力平価より円安方向にこれほどかい離したことはもちろんなかった。

【図表2】米ドル/円の消費者物価購買力平価からのかい離率(1973年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

ただし逆方向、つまり米ドル/円が購買力平価を円高方向に5割程度下ぶれたのが、1995年にかけての米ドル安・円高だった。米ドル/円が戦後初めて1米ドル=100円を超える円高となったことから「超円高」と呼ばれたこの動きは、1995年4月に80円に達したが、この時の米ドル/円は購買力平価を5割以上下回る米ドル安・円高だった。

この米ドル安・円高に終止符を打ったのは、1995年4月のG7(主要7ヶ国財務大臣・中央銀行総裁会議)合意だった。G7が発表した共同声明では以下のように言及された。

「最近の変動は、主要国における基礎的な経済状況によって正当化される水準を超えていることに合意した。彼らは、こうした変動を秩序ある形で反転させることが望ましいこと(略)についても合意した」。

要するに「ファンダメンタルズからかい離した米ドル安・円高を反転させる」ことを確認し、G7協調米ドル買い介入をきっかけに、その後、米ドル/円は実際に米ドル高・円安への反転に向かうところとなった。

止めるにとどまらず「反転させることが望ましい」円安

足下の円安は、ファンダメンタルズから異常なほどかい離した「悪い円安」なのか、それともあくまでファンダメンタルズを反映した結果なのかは、簡単には結論が出ないだろう。

ただし、ファンダメンタルズの目安として消費者物価購買力平価を参考にした場合、それより5割程度もかい離した足下の円安は、1995年の米ドル安と同程度である。その米ドル安について当時のG7は、「基礎的な経済状況によって正当化される水準を超えている」、「こうした変動を秩序ある形で反転させることが望ましい」と評価していた。現在の円安も「反転させることが望ましい」動きなのだろうか。