新CEOグレッグ・アベル氏最大の試金石、巨額資金の「資本配分」という規律

とはいえ、投資家にとって最大の関心事の一つは、やはりグレッグ・アベルさんが、約3,000億ドル規模の株式ポートフォリオと、約3,800億ドル規模の現金・短期国債を、今後どのように配分していくのかという点です。ここで重要なのは、アベルさんが卓越した事業運営者である一方、バフェットさんのような「伝説的な株式投資家」として市場に認識されてきた人物ではないということです。

バークシャーの強さは、単に優良企業を長期保有してきたことだけにあるわけではありません。どの価格で買い、どこまで保有し、いつ現金を温存し、いつ大胆に動くのか。その資本配分の規律こそが、バークシャーの本質でした。

その規律を、アベルさんがどこまで継承できるのか。ここに、ポスト・バフェット時代の最大の注目点があります。

中核銘柄は揺るがず、一部の運用はよりアクティブに

バークシャーの年次報告書では、株式投資は資本配分活動の根幹であり、その最終責任はCEOにあるとされています。一方で、投資マネージャーのテッド・ウェシュラーさんが、ポートフォリオの一部を運用しています。報道では、ウェシュラーさんが約200億ドル、全体の約6%を担当しているとされています。

アベルさんは、投資については引き続きバフェットさんと協働していると説明しました。そのうえで、これまでよりも株式投資の監督において積極的な役割を担い、必要に応じて保有を増やしたり、適正規模に調整したりしながら運用していく考えを示しました。この点について、僕はやや「これまでよりアクティブに投資ポートフォリオを管理していく」というニュアンスを感じました。

ただし、これはバフェット流の長期保有を否定するものではありません。アベルさんは同時に、バークシャーの株式ポートフォリオの大部分は頻繁に売買するものではないとも説明しています。アップル[AAPL]、コカ・コーラ[KO]、アメリカン・エキスプレス[AXP]、ムーディーズ[MCO]、そして日本の五大商社など、ポートフォリオの約3分の2は「大きな管理を必要としない」中核保有銘柄だという位置づけです。

アベルさんは、バークシャーの中核保有銘柄については、今後も長期的な視点で保有を続ける考えを示しました。そのうえで、残りの部分については、これまでよりも能動的に管理していくということだと思います。

東京海上への投資から読み解く、日本株へのスタンス

日本株についても注目すべき発言がありました。2026年3月後半に明らかになった東京海上ホールディングス(8766)への投資について、アベルさんは、単なる株式投資ではなく、事業上の提携も含めた重要なパートナーシップであり、極めて長期的な関係だと強調しました。

これは、日本の五大商社への投資とは少し性格が異なります。東京海上への投資は、純粋な株式ポートフォリオ上の投資というより、保険部門の責任者であるアジット・ジャインさんが長年築いてきた関係が、ようやく形になったものだという説明でした。そして、その関係は時間とともに進化していくとも語られました。

この点から考えると、日本の投資家の間には、五大商社に続いて東京海上にも投資したのだから、バークシャーはこれからさらに本格的に日本株投資を拡大していくのではないか、という期待があるかもしれません。しかし、今回の説明を聞く限り、僕はそう単純には考えていません。

東京海上への投資は、日本株全体への強気姿勢というよりも、バークシャーの保険事業との長年の関係に基づいた、かなり個別性の高い投資だと見るべきだと思います。したがって、バークシャーがここから日本株を次々と買っていくと考えるのは、やや早計ではないでしょうか。

官僚主義を排除した「効率的なコングロマリット」とアベル氏への評価

一方で、バークシャー本体の事業運営については、僕はアベルさんにかなり安心感を持ちました。バークシャーは、バフェットさんの印象があまりにも強い会社です。しかし、その経営哲学は社内で徹底されており、分権型の事業運営というバフェットさんが築き上げてきた体制は、すでにしっかりと出来上がっています。

アベルさんは、バークシャーの構造には官僚主義が存在しないこと、そしてグループ内で資本を柔軟に移動させる独自の能力があることを強調しました。

「我々はコングロマリットだが、効率的なコングロマリットだ」、アベルさんはそう述べました。さらに「我々には管理の階層がない」とも語りました。

これは、バークシャーという会社を理解するうえで非常に重要な言葉です。通常、巨大コングロマリットは、規模が大きくなるほど官僚的になります。管理階層が増え、意思決定が遅くなり、資本配分も硬直化します。しかし、バークシャーはその逆を目指してきました。各事業会社には大きな自由を与え、本社は過剰に介入しない。その一方で、資本配分、評判、企業文化については、極めて強い規律を持つ。この独特の仕組みこそが、バークシャーの競争優位です。

そういう意味では、2000年からバークシャーで事業経験を積み、バフェットさんから絶対的な信任を得てきたベテラン経営者であるアベルさんが、事業運営そのもので大きく失敗するリスクは低いと感じました。むしろ市場が今後注目するのは、約60兆円規模の待機資金を、アベルさんがどのようにバークシャーらしく投資していくのかです。

買収なのか。上場株式なのか。自社株買いなのか。あるいは、何もしないのか。バークシャーにおいては、「何もしない」こともまた、明確な資本配分の判断です。

今回のアベルさんによる初めての株主総会は、非常にうまくこなされたと僕は思います。もちろん、バフェットさんのようなユーモアや独特の語り口を期待することはできません。しかし、アベルさんは、自分がバフェットさんのコピーではないことを理解したうえで、バークシャーを「事業群と経営陣の集合体」として見せようとしていました。個人的には、期待も込めて、今回のアベルさんには100点をあげたいと思います。

バフェット氏のインタビュー、市場への警鐘と最強の武器「何もしない力」

最後に、総会当日に行われたバフェットさんのインタビュー発言についても触れておきたいと思います。

バフェットさんは、一部で言われているように、市場暴落を予言しているわけではありません。彼が今回指摘したのは、市場参加者の投機的心理が極端に強まっているということです。市場を「カジノが併設された教会」と例えたのも、正確には今回初めてそう表現したのではなく、過去にそう表現したことがあるという文脈でした。今回、1日物オプションのような取引については、「投資でも投機でもなく、完全なギャンブルだ」と述べ、一部の短期的な取引を厳しく批判しました。

ただし、ここで重要なのは、バフェットさんが市場全体を悲観しているわけではないということです。むしろ彼は、僕たちとは異なる時間軸と、徹底した競争優位の感覚で米国マーケットを見ています。総会当日のインタビューで、彼はこう語っています。

「私たちは自分たちで狙いどころを選ぶことができ、誰も私たちに正確に何をしろとは言えません。ですから、ときには何もしませんが、別のときにはかなり積極的に動きます」。

「(周囲を見渡しても、投資したいと思うものがあまり見当たらない)そうであれば、何もしません。つまり、私はこのビジネスに60年まで関わってきました。そのうち本当においしい年は、おそらく5年くらいです」。

さらに印象的だったのは、自分の能力範囲についての率直さです。

「10年前に比べると、全体に占める割合として、私が理解している事業は少なくなっています。私はここ数年、新しい産業を学んでいません。ですから、その点で自分をごまかしません。私はそれらを学ぶつもりはありません。私は、それらとともに育ち、その製品を使い、物事を見てきた多くの若い人たちに対して、優位性を持つことはありません」

バフェットさんの仕事は、相場を当てることではありません。分かるものだけを待つ。 分からないものには手を出さない。 チャンスが来るまで、何年でも何もしない。この「何もしない力」こそ、長期投資家にとって最も難しい規律であり、これまでバークシャーが投資の世界で大成功してきた秘訣の一つなのではないかと思います。