原油価格100ドル突破の背景と長期化リスク
米国がイランに対して軍事攻撃を開始してから、1ヶ月以上が経ちました。世界経済への悪影響が徐々に表面化しており、最大の懸念要因は原油価格の動向です。紛争開始直後からイラン革命防衛隊によってホルムズ海峡が封鎖され、原油価格は急騰しました。WTI先物価格は100ドルの大台を突破し、4月8日の停戦合意後は100ドルを割ったものの、現在も90ドル台後半と高い水準にとどまっています。
仮に紛争状態が解かれても、原油を巡る物流はすぐには元に戻らず、高値がこのまま定着してしまう恐れがあります。毎日のように状況が変わる不確実な情勢ですが、今回は原油価格高騰の影響について述べてみます。
国家戦略物資の需給ひっ迫は収束に時間がかかる
紛争が長期化した場合は言うまでもありませんが、中東の地政学リスクがここまで明らかに露呈してしまった以上、先進国・新興国を問わず、いずれの国・地域も経済安全保障の強化を図って、原油の国家備蓄を強化していくと予想されます。
新型コロナウイルス拡大時と同様のことが起こる懸念があります。あの時は半導体でした。世界的なサプライチェーンの混乱で、半導体の需要超過と供給不足の状況が発生し、コロナ禍が過ぎた後も簡単には解消しなかったのと同じ理屈です。
半導体と原油。世界的に供給元が限られる国家戦略物資では、需要の急増、供給の急減による短期的な需給ひっ迫は、収束するのに時間がかかります。当時と同じように、軍事衝突が収束しても、原油価格の高止まりはその後も続くことが予想されます。
日本では原油価格が100ドルを超えると、何も手を打たなければガソリンの小売価格は230円程度になると試算されています。そのため高市政権は、予想されるガソリン価格の高騰に対して、石油元売り会社に補助金を支給して小売価格を170円程度に押さえ込む政策を採っています。
財政負担の増大から金利上昇・円安圧力へ
そのための財源として、当面は予備費から8000億円を融通して価格補助をまかなっています。しかし、この状況が長期化すると財政支出が膨らみ、新たな財源の手当てが必要となります。国債増発ともなれば、長期金利が一段と上昇する恐れがあります。
長期金利の上昇は、企業の借り入れコストを押し上げます。住宅ローン金利も上昇するため、企業業績と個人消費にダブルの悪影響が出かねません。原油の購入代金の増加により貿易赤字も拡大し、円安圧力が増すことになります。
これらを勘案すると、2026年の実質GDPは▲0.2%―▲0.3%程度の下押し要因になる、との見方が市場では早くも出ています。2027年も▲0.3%-▲0.4%程度の押し下げになります。
インフレ再燃による実質賃金の低下、高まる「節約志向」
個人消費への影響は住宅ローン金利の上昇ばかりではありません。ガソリン価格の上昇や円安による輸入物価の上昇がインフレ再燃を招き、物価上昇を通じて実質賃金の低下につながりかねません。賃金の上昇に弾みがついてきた矢先ですので、これは非常に痛いところです。
消費者は物価上昇に対して、節約志向をさらに強めることが考えられます。すでにその兆候が見え始めており、スーパーでは買い上げ点数が減少し、外食を控える動きも出ています。旅行需要も打撃を受けかねません。財布のひもはさらにきつく締められることになります。
耐久消費財の買い控えが起こりやすくなり、ディスカウントストアなどの低価格品が選好されるようになります。消費活動への影響が特に心配されます。
小売店サイドでは食料品を中心に値上げ再開に踏み切ることが予想されます。それがさらに消費者の買い控えにもつながりやすくなります。
実体経済へのタイムラグと景気後退リスク
注意すべきは、上記のような動きがすべて表面化するまでにタイムラグがある点です。原油高によるエネルギーコストの上昇は、実体経済に1年ほど遅れて表れます。原油高の期間が長引くほど「景気の押し下げ」から「景気後退」に進む可能性が高まってきます。ここから先の経済指標の発表には細心の注意が必要です。
株式市場および国民経済にとって、物価高にダイレクトに結びつく原油価格の高騰は短期・中期的には良い結果をほとんどもたらしません。米国・イスラエルとイランとの武力衝突が一刻も早く終息することを願うばかりです。
物価高・節約志向の環境下で注目される関連銘柄
東洋水産(2875)
国内即席麺業界では日清食品ホールディングス(2897)に次ぐ第2位。「マルちゃん」ブランドで知られる。「赤いきつね」と「緑のたぬき」が主力製品。7月1日から「赤いきつねうどん」と「緑のたぬき天そば」をはじめ、カップ麺やワンタンなど120品を4-11%値上げすると3月末に発表。原材料費、物流費の上昇を転嫁する。2028年3月期を最終年度とする現在の中計では売上高6000億円(実績5070億円)、営業利益820億円(同754億円)、ROE10%以上を目指している。
味の素(2802)
調味料首位。戦前から海外にも進出し、現在は130以上の国・地域で事業を展開する。海外で続く和食ブームに乗って「ほんだし」など和風だしの素、風味調味料が伸びる。電子材料分野にも進出し、半導体パッケージ層間絶縁材料「ビルドアップフィルム」が急拡大している。8月1日より業務用のうま味調味料、低カロリー甘味料、和風調味料、ドレッシング、加工食品の価格を3-30%値上げすると発表。包材費、物流費、人件費のコスト上昇を転嫁する。
トレジャー・ファクトリー(3093)
リユースショップ「トレジャーファクトリー」を展開。ブランド古着「ブランドコレクト」、スポーツアウトドア「トレファクスポーツアウトドア」、家電・家具の「トレファクマーケット」が伸びる。リユース業態の成功のカギは仕入れの充実。出張・宅配による一般顧客からの買い取りと業者からの仕入れがともに拡大。前期は20店以上の新規出店を果たし、月次売上は全店ベースで2ケタの伸びを続ける。今後は海外も含め年間30-40店の出店を進める計画。
ハイデイ日高(7611)
首都圏の駅前に「中華食堂日高屋」を多数展開。看板商品の「中華そば」は420円の低価格を維持しており、他の外食業態と比べても圧倒的に価格競争力がある。新規出店に弾みがつき2026年3月末で471店に達した。直営形式での出店が中心。来店客数は+4.4%、客単価も+4.5%と安定した伸びを継続。コメ、豚肉、鶏卵などの原価率の上昇と人件費・物流費の増加を吸収して第3四半期までの累計売上高、営業利益は過去最高を更新。目標の「首都圏600店」を目指して成長余地は十分にある。
