「断固たる」と述べた片山財務相=介入再開を決めたのか?
片山財務相は先日のあるインタビューの中で、「(円安に対して)断固たる措置をとる用意がある」と語り注目を集めた。「断固たる」とは、通貨当局が為替介入に出動することを決めた際に使われる表現の1つであると、市場関係者の間で理解されているからだ。
実際、米ドル高・円安は、2022年の最初に米ドル売り・円買い介入が行われたと見られる水準、145円を大きく上回る動きになっている。その上、2024年の最初に米ドル売り・円買い介入が行われたと見られる160円にも接近してきた(図表1参照)。こうした中で、通貨当局が米ドル売り・円買い介入の再開を決めたということはあるだろうか。
これまでの米ドル売り・円買い介入の開始を、為替水準ではなく120日MA(移動平均線)かい離率で見ると違った印象になりそうだ。2022年9月、そして2024年4月の介入は、同かい離率が5%以上に大きく拡大、具体的には前者では7%、そして後者でも6%まで拡大したところで開始された(図表2参照)。
これに対して、12月26日時点の同かい離率は3%程度にとどまっていた。以上のように見ると、仮に120日MAを米ドル/円が5%以上と大きく上回った動きを「短期的に急過ぎる変動」といった介入開始の目安としているなら、まだ米ドル売り・円買い介入再開を決めたということはないだろう。そうであれば、なぜ片山財務相は「断固たる」といったすでに介入再開を決めたと受け止められかねない表現を使ったのだろうか。
介入前のイベント、三者会合の変化=官僚主導から政治主導へ?
これまで為替市場への介入を決める前に行われるイベントの1つに、財務省、金融庁、日銀による三者会合があった。たとえば2022年9月は22日に最初の介入を行ったが、その少し前、9月8日に開かれたこの会合終了後に、当時の神田財務官は、「あらゆる措置を排除せず為替市場で必要な対応を取る準備がある」と述べた。
興味深いのは、この発言を取り上げたメディアは、これについて「為替介入については言及しなかった」と説明していた。ただ、そもそも「為替市場で必要な対応を取る」を素直に読むと為替市場介入になる。この「為替市場で必要な対応を取る」という表現こそは、G7(主要7ヶ国財務相会議)などの国際会議でも介入合意を示唆する不文律の扱いになっていることは関係者の間でよく知られているようだ。そう考えると、この三者会合こそ、為替政策を主導する財務省が介入することを決め、それを他の金融当局と密かに共有した場だった可能性があるだろう。
ところで、高市政権発足後の円安、「高市円安」がこの間のピークをつけた11月20日の前日にも、似たような三者会合が開かれていた。ただ、上述の2022年9月の三者会合との大きな違いは、片山財務相、植田日銀総裁、城内経済財政政策担当相が出席し、会合終了後の説明も片山財務相が行ったということだ。
つまり、2022年9月が財務官など官僚主導だったのに対し、今回は「政治主導」に変わったようだった。この辺も、安倍政権時代を継承する高市政権らしい印象を強く受ける。そうした「政治主導」は、高市政権以前の「官僚主導」の為替介入の考え方を変える可能性もあるかもしれない。
政治主導の介入は吉か凶か=2024年までの投機主導の円安とも違う可能性
ここまで見てきたことについて整理してみる。高市政権以前の官僚主導の為替介入ルールを前提にした場合、米ドル/円が160円を下回っている中での米ドル売り・円買い介入再開の可能性は低そうだ。逆に言えば、160円未満でも介入再開となるなら、これまでの官僚主導の為替介入ルールを否定し、政治主導に変わった可能性を示すだろう。それが円安阻止という意味では、吉と出るか凶と出るか。
2024年までの円安は、投機筋の円売り主導で展開した可能性が高かったのに対し、今回はその点が大きく異なっている可能性がある(図表3参照)。そうであれば、通貨当局による米ドル売り・円買い介入が、逆になお十分に余力のある投機筋の米ドル買い・円売り拡大のきっかけになる危険性もあるだろう。
ある財務官経験者は、「為替介入は“勝つ”必要がある。160円以下での介入は円売りに吸収されるリスクもある。160円を超えて円安が止まらず介入をやることになっても、米経済指標発表のタイミングと合わせるなど慎重な判断が必要だろう」との見方を示した。政治主導の介入が、「凶」と出るリスクにも要注意だ。
