2026年11月の米中間選挙は日本株市場にも大きく影響
2026年に最も注目される政治イベントの1つが、11月3日に実施される米国の中間選挙です。中間選挙とは、米国議会の改選が行われる選挙で、大統領選の2年後にあたる年に、4年に1度のサイクルで実施されます。大統領任期のちょうど中間地点で行われることから、この名称が付けられています。大統領の政策運営に影響を及ぼす重要な選挙であるため、米国市場だけでなく日本株市場にも大きな影響を与えます。
こうした重要性を背景に、中間選挙には相場の傾向として知られる「中間選挙アノマリー」が存在し、米大統領選挙アノマリーと並んで投資家の注目を集めています。2026年の相場を制するためには、このアノマリーを正しく理解しておくことが不可欠です。そこで今回は、中間選挙アノマリーについて紹介します。
2026年の相場を動かす中間選挙アノマリーの検証、米国株の傾向は?
中間選挙アノマリーとしてよく知られているのが、「中間選挙の年は相場が弱い」という見方です。米大統領選挙アノマリーと組み合わせると、「大統領選の年は相場が強く、中間選挙の年は相場が弱い」とされています。まずはデータでその傾向を確認してみましょう。
「中間選挙の年は相場が弱い」と言われる背景
今回の話題は米国の選挙に関するものですので、日本株の結果を見る前に、NYダウを用いた米国株の傾向から見ていきます。図表1では、大統領選挙サイクルを4つに分類し、各年の平均騰落率を示しています。
NYダウを使った米国株の動きを見ると、中間選挙の年は平均5.2%の上昇にとどまり、4つの年の中で最も低い騰落率となっています。確かに、中間選挙の年には相場が他の年よりも弱くなりやすい傾向が確認できます。一方、大統領選挙の年は平均5.8%の上昇となっており、中間選挙の年よりは強いものの、目立って高いわけではありません。注目すべきは 中間選挙翌年(=大統領選前年) で、騰落率が平均16.1%と4年間で最も高い水準になっている点です。
中間選挙翌年(=大統領選前年)は株価が上昇しやすい
この傾向には次のような背景があります。米国の大統領は再選を見据え、任期の前半では国の基盤を整えるために、国民に痛みを伴う改革や政策に取り組むことが多くなります。その結果、任期2年目にあたる中間選挙の年は株価が弱含みになりやすい傾向があります。実際、米トランプ政権でも就任後に「トランプ関税」と呼ばれる高関税政策を導入し、国内企業のコスト増や国際摩擦を招いた結果、市場に不透明感が広がりました。こうした短期的な負担を伴う政策は、まさに中間選挙年の相場が弱含みやすくなる要因として位置づけられます。
一方、任期の後半は再選を意識し、多くの有権者が歓迎する景気刺激策を打ち出すため、景気が上向きやすくなります。また今回の例でいえば、米トランプ政権が掲げる高関税政策を交渉材料とし、各国に対して「高い関税を適用しない代わりに、米国内での設備投資や生産拠点の設置を促す」といった取引の成果が期待できます。海外企業が米国内に資本を振り向け、雇用創出や生産拡大につながるため、景気刺激効果として働きやすい点が注目されます。
このため、とくに大統領選前年の年(=中間選挙翌年)は政策効果が顕在化しやすく、株価が大きく上昇しやすいのです。大統領選挙の年そのものは、どの候補が次期大統領になるかという政治的な不透明感が残るため、株価の上昇がやや抑えられる傾向があります。さらに、大統領選挙翌年は、選挙という大きなイベントが終わり政治の不透明要因が後退することで、市場が落ち着きを取り戻し、株価が堅調に推移しやすくなります。
日本株における米大統領選サイクルの特徴と米国株とのタイムラグ
次に、日経平均株価の騰落率を用いて日本株の動きを確認してみましょう。日本株では、米大統領選挙の年の上昇率が最も高く、平均で19.7%の上昇となっています(図表1)。米国株が大統領選挙前年に最も強いのに対し、日本株は大統領選挙の年が最大となる点が特徴的です。
日本株がむしろ「米大統領選の年は強く、中間選挙の年は弱い」要因は?
日本株がこうした動きを示す背景には、米国株との強い連動性(カップリング)が挙げられます。米国で株価が上昇し景気が良くなると、日本企業─とくに輸出企業─の業績が改善し、日本の景気も押し上げられます。その結果、日本株も上昇しやすくなるという構図です。ただし、この影響は一定のラグ(遅れ)が存在するようです。そのため、大統領選挙前年に米国株が最も好調になる傾向が、タイムラグを経て日本株に波及し、日本では大統領選挙の年に株高となりやすいのです。
一方、中間選挙の年の日本株は、平均騰落率が0.5%と4つのパターンの中で最も低い結果となりました。これは米国株が中間選挙の年に他の年と比べて上昇しにくい傾向を持つことに加え、選挙対策として米国が自国優位の政策を打ち出しやすく、それが日本にとってネガティブに働く可能性がある点も影響していると考えられます。
このように、「米大統領選の年は強く、中間選挙の年は弱い」というアノマリーは、米国株よりもむしろ日本株の方により鮮明に表れる傾向が、データから確認できます。
さらに、日本株についてより踏み込んだ分析を行うため、大統領選挙サイクルを4つに分類したうえで、それぞれの年の月別騰落率を確認しました。図表2では、中間選挙の年における9月の騰落率(ピンク字)が-2.57%となり、年間で最も大きな下落を示しています。これは、中間選挙の年に該当する各年の9月の日経平均株価の騰落率を平均したものです。
中間選挙の年は、11月の選挙本番を控えた時期に不透明感が高まりやすく、選挙の前月に向けて相場が弱含む傾向が見られることを示しています。
そして、傾向をより明確にするために、図表2において大統領選挙サイクルを4つに分類した各年について、1月からの累積騰落率を比較しています(図表3)。これを見ると、中間選挙の年は10月にかけて株価が伸び悩む傾向が表れており、中間選挙に向けた不透明感が相場の重しとなっている様子がうかがえます。
中間選挙前の不透明感と2026年相場への影響は?
ここまで、米国大統領選挙アノマリーと中間選挙アノマリーの2つについて解説してきました。1つ目のアノマリーは、「米大統領選の年は相場が強く、中間選挙の年は相場が弱い」というものです。
もっとも、筆者は2026年相場については強気の見方をとっています。企業業績が回復基調にあることを踏まえると、2026年の年末に向けて日経平均株価は5万4,000円を目指す展開を想定しています。詳細は12月3日付の「吉野貴晶のマーケットクオンツ分析」のレポート「2026年の日経平均はどこまで上がるか?ROE×PBRで読み解く理論株価レンジ」で解説していますので、ぜひそちらをご参照ください。総じて、足元の投資環境を考えると株価は堅調に推移するとみています。
ここで留意すべきは、アノマリーとはあくまで過去に見られた典型的なパターンを示すものであり、その時々の相場環境と合わせて解釈する必要があるという点です。加えて、図表1が示すように、中間選挙の年の平均騰落率はマイナスではなく、プラスを確保していることもあわせて認識しておく必要があります。
一方で、基本的には上昇基調が見込まれるものの、米トランプ政権の与党である共和党が中間選挙で厳しい結果となる可能性があり、こうした不透明感が株価の上値を抑える場面も想定されます。これは、2つ目のアノマリーである「中間選挙の年は10月にかけて株価が伸び悩みやすい」という傾向とも整合的です。中間選挙に向けて、米トランプ政権が「 アメリカ・ファースト」の政策を一段と強めることで、日本に不利な影響が及ぶ可能性も念頭に置く必要があります。
したがって、「中間選挙の年は10月にかけて株価が伸び悩みやすい」という月別騰落の特徴を意識しながら相場に臨む姿勢が重要になります。
こうした中間選挙アノマリーを踏まえたとしても、2026年の相場全体については、中間選挙前に一時的に軟調な局面があった場合でも、年末にかけては上昇基調をたどる展開を予想しています。
