2022年「トラス・ショック」、そして1998年「資金運用部ショック」
11月にかけて一時157円台まで米ドル高・円安に戻した動きは、日米金利差(米ドル優位・円劣位)では説明できず、日本の長期金利上昇に連動したようだった(図表1参照)。このためこの円安は、財政リスクなどを懸念した日本からの資本流出の影響が大きい結果との見方が強い。
今回と似たような例としてよく引き合いに出されるのは、財政規律への懸念から株、債券、通貨の「トリプル安」となった2022年の「トラス・ショック」だ。そしてもう1つ、日本の債券暴落の例としては1998年の「資金運用部ショック」があった。まずは後者から確認してみたい。
「資金運用部ショック」再来なら10年債利回り2.5%へ?
1998年10月、日本の10年債利回りは0.8%程度で推移していた。ところが、有力格付け会社による日本国債の格下げ、そして大蔵省(現財務省)の国債定期買い入れ停止の決定などを受けて債券は暴落、10年債利回りも約3ヶ月という短期間で一気に2.5%近くまでの暴騰となった(図表2参照)。これが、比較的最近の日本における代表的な債券暴落だろう。
上述のように、最近にかけて日本の財政規律への懸念などから債券価格の下落リスクへの懸念が強まっているようだ。もしもそれが「資金運用部ショック」再来となり、一気に10年債利回りが2%を大幅に上回る暴騰に向かうなら、この間の関係を前提に考えると、米ドル/円は170円前後を目指す円急落に向かってもおかしくないかもしれない(図表3参照)。
「トラス・ショック」再来なら円安170円へ?
「資金運用ショック」以上に、最近引き合いに出されるのは2022年の「トラス・ショック」だろう。英国のトラス首相が、財源が曖昧なままの大減税などを発表すると、まさに財政規律への懸念から株、債券、通貨の「トリプル安」の洗礼を浴びるところとなり、早期退陣に追い込まれるところとなった。
このトラス首相の発表は2022年9月23日。その直後から、英ポンドは米ドルに対して最大8%以上の急落に向かった(図表4参照)。では、もし今回、高市政権の「責任ある積極財政」が「無責任」との評価となって「トラス・ショック」並みに短期間で8%の米ドルに対する円の急落が起こるなら、起点が155円の場合、一気に170円を目指す計算になる。
以上、日本の債券暴落の代表例、1998年の「資金運用部ショック」と、2022年の「トラス・ショック」について見てきた。中身は違うものの、前者の債券暴落、後者の通貨暴落が再現する場合、米ドル/円は170円前後への円急落が起こりかねないという結論になった。それは杞憂に過ぎないのか、そうでなければ高市政権がそれを回避できるかということになるだろう。
