2024年までの投機主導の円安とは違う=介入での円安阻止は困難か
2022年以降の円安局面の終了には、日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入が重要な役割を果たすことが多かった。それは短期売買を行う投機筋の円売りが主導した円安だったことが大きいだろう。当局の大規模介入で投機筋による円売りに歯止めをかけることに成功すると、その後は投機筋が円買い戻しに転じることで円高への反転が実現した。
この点が今回の円安は違う可能性がある。ヘッジファンドの取引を反映するCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋のポジションを見る限り、今回の円安は投機筋による円売り主導のものではなさそうだ(図表1参照)。
今回の円安の主導役は誰か。この数ヶ月の米ドル高・円安は基本的に日本の長期金利上昇に連動してきた(図表2参照)。その意味では、日本から資本流出が起こり、その結果金利上昇でも円安になるという、いわば「悪い円安」が起こっている可能性が高そうだ。そうであれば、円安の主導役は日本からの資本流出ということになり、その流れを介入によって変えるのは厳しいだろう。
米国の介入なら円安阻止は可能=ただし株バブル破裂、米ドル暴落招く危険も
介入によってこの「悪い円安」の流れを変えられるとすれば、米国が米ドル売り・円買い介入に出動するなら可能性は出てくるかもしれない。通貨防衛介入の弱点は、有限な外貨を売る点にある。日本の円安阻止の場合、米ドルなど外貨を売る介入には限度があるが、米国の場合は話が異なる。米国の場合なら、自国通貨の米ドルをほぼ無制限で売れる可能性があるため、「悪い円安」を止められるかもしれない。
ただ、円暴落が誰の目からも明らかになった場合ならともかく、今の段階でそれが現実化する可能性はまだまだ考えにくいだろう。そもそも米国による米ドル売り介入は、一転して米ドル大暴落の引き金を引きかねないリスクもあるのではないか。
米国が主導してきたここまでの世界的株高には、いくつか極端な行き過ぎという「バブル」の懸念がある。NYダウに対するナスダック総合指数の相対株価は、2000年のITバブル以上のナスダック割高となっており、「ITバブル以上」という意味では「超バブル」ともいえるのではないか(図表3参照)。
「超バブル」の破裂となれば、米国から資本流出が起こり、それを受けて米ドル安の結果として円高になる可能性はあるだろう。そう考えると、自ら米ドルと株の暴落のきっかけになりかねない米国の米ドル売り介入はやはり非現実的ということではないか。
資本流出の元凶、日本の財政への懸念払しょくは?=「トラス・ショック」再来か
日本からの資本流出を受けた円安という「悪い円安」が止まる条件は、基本的にはその資本流出が止まるか、それ以上に海外から資本流出が起こるかが目安になるだろう。そもそもなぜ日本から資本流出が起こっているかといえば、それは日本の財政規律への懸念との見方が有力だろう。目先的には、高市政権の掲げる「責任ある積極財政」の「責任」が疑われている点が大きいのではないか。
そうであれば、「悪い円安」を止めるためには、高市政権の財政の責任明確化が不可欠のように考えられる。ある政府関係者は、「それほど余裕がない。12月の来年度予算案の閣議決定のタイミングでも何らかの明確化が必要だろう」との見方を示した。それがうまくできなければ、「悪い円安」は最悪の場合2022年のいわゆる「トラス・ショック」の再来となる危険性もくすぶっているのかもしれない。
