新しい概念を理解するとき、あなたはどのようにアプローチしますか?
既存の知識や経験に当てはめようとしますか?
それとも、その概念そのものの定義から学び直しますか?
11月5日の「みんなのつぶやき」でも書きましたが、先日、国立科学博物館で「量子の世紀」という企画展を見てきました。2025年は、量子力学の1世紀を記念する「国際量子科学技術年」です。
光が波であることを示したトーマス・ヤングの二重スリット実験や、量子トンネル効果の展示など、科学のおもしろさを実感できるすばらしい企画展でした。この企画展を見ながら、私は大学・大学院時代の3年間を思い出していました。
当時、私は量子力学の理論物性を研究していました。量子力学を学び始めたころ、その世界で起きていることは私の直感に完全に反しており、理解するのに本当に苦労しました。
人類は、16世紀から19世紀にかけて、自然界のルールを理論と実験を通して発見してきました。
ガリレオ・ガリレイ、コペルニクス、ケプラー、ニュートン。
彼らは、自然界の事象を観測し、その理由を論理的に説明し、実験によって証明してきました。
この時代の物理を古典力学と呼びます。古典力学は、私たちの直感と一致する結果をもたらします。そのため、科学者にとって理解することは難しくありませんでした。しかし20世紀になると、科学技術が発展しました。これまで観測できなかった事象が観測できるようになると、科学者たちは困惑します。古典力学で導かれる結果と、実際の観測結果が一致しなかったからです。
19世紀まで、自然界はニュートン力学を礎とした古典力学で全て説明できると考えられていました。
ルートヴィッヒ・ボルツマン、ハインリヒ・ヘルツ、マックス・プランク、アルベルト・アインシュタイン。
19世紀から20世紀の偉大な科学者たちによって、量子の世界が次第に解明されていきます。
このとき、量子の世界を理解する上で最大の壁となったのは、その事象が私たち人間の直感と完全に反していたことでした。
私も量子力学を学び始めたころ、同じ壁にぶつかりました。3年間学び続ける中で、ようやく理解できたことがあります。それは、量子の世界で起きていることは自分の直感と反していても、矛盾していないということです。そして、「事象をありのまま受け入れる」姿勢の重要性を学びました。
著名な科学者は、こう述べています。「量子を、自分の知っている既存の概念で理解しようとするからわけがわからなくなる。量子は、粒子と波の両方の性質を持つ存在(概念)と理解すると無理なく理解できる」。
この言葉は、私に新しい視点を与えてくれました。新しい概念を理解するとき、既存の概念に当てはめようとするのではなく、その概念そのものの定義から理解する。この姿勢こそが、理解への最短経路なのです。
