戻りの鈍かった香港ハンセン指数も5月12日の共同声明後は大幅高に

中国株の2025年5月12日終値~5月30日終値までの騰落率は、上海総合指数は-0.6%、香港ハンセン指数は-1.1%と横ばいからやや軟調な動きとなっています。

中国株はトランプ政権の関税政策の影響で急落し、4月7日には香港ハンセン指数は3021.51ポイントの下げ幅で、下げ率は1997年以来、売買代金は過去最大を記録して売り込まれるなどしました。4月9日に一部関税が90日間延期されると、世界的に株式市場は回復の流れとなりましたが、香港ハンセン指数の戻りは鈍かったものです。

しかし、ようやく5月から世界的な流れに乗り、出来高の増加を伴った上昇が続くようになりました。5月12日に、スイス・ジュネーブで行われた米中貿易協議の共同声明が発表されると、香港ハンセン指数は出来高を膨らませて大幅高に。50日移動平均線も大きく上に突き抜け、株価は上昇トレンド基調になっているようです。

上昇転換の要因は、言うまでもなく米中協議の進展です。米中両国は引き上げた関税の一部を90日間停止し、当面の間、米国は現在145%の関税を30%に、中国も125%の関税を10%に下げるという内容でした。さらに協議は継続され、その進展を市場は待っている状態です。元々の100%を大きく超える「非現実的」な関税がベースになっていたので、10~30%というのは現実的な線になったとも言えますが、貿易を妨げるのには十分大きな税率でもあります。

最終的には違法薬物対策(フェンタニル課税)として上乗せされた米国の20%分が交渉で省かれ、両国とも10%で落ち着くのが現実的でしょうが、そうだとしても、10%のコスト上昇は大きいと思います。

このコストは輸出国が払うものでなく、輸入国の企業が仕入れコスト増の形で支払うことになります。その費用は企業が飲み込んで利益を削るか、それとも消費者に価格転化して払わせるかで、いずれにしても法人増税や消費増税のような結果となります。国は関税によって歳入増となるのも増税と同じメカニズムです。つまり単純に企業か消費者の負担になる増税です。

中国は強気姿勢でトランプ関税には限界も

関税を含め、あらゆる税は株式的にはマイナスでしかありません。ただ、今回の中国がモデルケースとなって今後の貿易交渉が前進し、思ったほど悪くない着地点になる可能性は出てきたと思います。

中国は当初の145%というトランプ関税を、吹っかけている数字と見抜いていました。他の国々が米国の交渉呼びかけに大急ぎ・大慌てで対応し、官僚をワシントンに派遣したのと異なり、強気・強硬姿勢を崩しませんでした。全くトランプ米大統領の対話呼びかけに応じず、きちんとした協議の場(スイスで、大統領の信任を得た交渉者を同席させる)を米国に設けさせ、どちらかと言えば中国ペースで交渉が進展しているようです。これらのことは、トランプ関税を真に受けて、大慌てするばかりだった他の国の出方にも参考になるでしょう。いくら高い関税を吹っ掛けられ、無理難題を押し付けられても、経済的に現実的な線を米国は超えられないと知らしめた一件で、今後の各国交渉にも進展が期待できます。

その後、トランプ米大統領は5月30日に中国がジュネーブで締結した合意に違反していると非難し、これを受けて中国商務省も6月2日に、米国が合意内容に違反したと非難しており、トランプ米大統領と中国の習近平国家主席が電話会談を行う可能性があるとも伝えられています。

米国は中国が電子機器に不可欠なレアアースの輸出制限を継続していると非難する一方、中国は米国が半導体などの技術制限を強化していると指摘。半導体のサプライチェーンを握っている米国が有利なようにも見えますが、中国のレアアース代替には、まだまだ時間がかかるとみられるため、中国も強気の姿勢を崩していない様子です。

このように考えていくと、この問題解決には相当長い時間を要する可能性がある一方で、ある程度は現実的な線で落ち着いていく方向(米国だけが強いというわけではない)で進むと考えられることから、株価が急落し、優良銘柄の株価が下落したところはチャンスであると考えることもできると思います。