親子上場の解消時、子会社株は一定のプレミアムをつけて評価されやすい
本連載では度々、親子上場の解消が投資機会になると解説してきました。親子上場の解消時は、一定のプレミアムをつけて子会社株が評価されるケースが多いからです。日本の株式市場において、親子上場は長く課題視されてきており、じわじわと解消は進んできていました。
そんななか、直近で親子上場の解消が急速に進んでいます。これは、2020年に開始された、東証の「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」の影響が大きそうです。東証は親子上場の問題を紐解き、その解消に向け、この研究会を設置。同研究会では2023年12月に議論を取りまとめ、「少数株主保護及びグループ経営に関する情報開示の充実」「支配株主・支配的な株主を有する上場会社において独立社外取締役に期待される役割」をまとめています。また、2025年2月には「親子上場等に関する投資者の目線」を公開、この「目線」は話題となりました。
「目線」の中では、上記の「情報開示の充実」等が十分ではないとの投資家側の声が取り上げられています。親子上場の問題点でもっとも挙げられるのは、子会社に投資する投資家(親会社と比べる意味で「少数株主」と呼ばれます)、親会社の利益相反です。利益相反について、上記の「情報開示の充実」が求めることは、利益相反を防止した上で、その取組等を適切に情報開示すべし、ということになります。
親子上場の解消が急速に進みだした背景は?
しかし、「目線」ではそういった意識が低い企業があるとの意見が掲載されています。また、そもそもどうして親子上場を行っているのかの意義を適切に説明されていないという声も多いようです。典型的なケースとして、親会社に質問をすると「子会社の話なので子会社に聞くべし」、子会社に問うと「親会社の意向なので、親会社に聞くべし」というような事例が挙げられています。
こうした課題が挙げられる中、そもそも親子上場を検討し、その意義が薄いと判断する場合もあるでしょうし、情報開示などのコストの発生を嫌うようなこともあるのでしょう。親子上場の解消が直近で大きく進むことになったというわけです。
同研究会の報告資料などは日本取引所グループのWebサイト(「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」のページ)にまとまっています。親子上場の解消のような大きな投資テーマが進んでいく際には、こうした取引所の動きが大きいため、これらの報告を読むことで今後の動きを検討できるでしょう。
トヨタ自動車(7203)が豊田自動織機(6201)の公開買付の実施を発表、6兆円規模の買収に
さて、そういう親子上場の解消の中で超大物と言えるのは、5月20日にトヨタ自動車(7203)が公開買付を実施すると発表された豊田自動織機(6201)のケースでしょう。豊田自動織機はこの報道前で時価総額5兆円という会社です。公開買付報道前に親子上場を解消するという報道があったため、株価が上がっている面はありましたが、トヨタ自動車による6兆円規模の買収は、親子上場の解消の中でも最大級と言えます。
もともと豊田自動織機はトヨタグループの源流となる会社で、トヨタ自動車はもちろん、デンソー(6902)、豊田通商(8015)などの株式を保有しています。かねてから、その保有株式に対して割安だという声も多くありました。豊田自動織機のトヨタ株保有は11.9億株、それだけで3兆円近い評価額となり、グループ株式を合わせるとその価値が大きいとされていたからです。
言うまでもなく、トヨタ自動車は日本を代表する会社で、そのトヨタ自動車が動いたことは親子上場の解消において象徴的と言えそうです。もう一つ、日本電信電話(NTT)(9432)によるNTTデータグループ(9613)の買収もありましたが、NTTはすでに上場していたドコモを買収しています。NTTとトヨタのこの再編は、親子上場の解消をより進めていくように思われます。
日本を代表する会社が次々と親子上場を解消、再編へ
これ以外にも、KDDI(9433)株式をトヨタ自動車と京セラ(6971)が売却するという発表もありました。KDDIがTOBを行い、これに両社が申し込む形とのこと。京セラはKDDIの前身である第二電電の設立に関わっており、現在でもKDDIの筆頭株主です。第二電電の設立は1984年なので、実に40年以上の関係がある中で売却を進めていくということになります。
他にも三菱商事(8058)が三菱食品(7451)に対して公開買付、日本たばこ産業(2914)は傘下であった鳥居薬品(4551)を塩野義製薬(4507)の公開買付により売却します。日本を代表するような会社が次々と親子上場の解消、再編に取り組んでいることがうかがえます。
本連載では親子上場の解消を取り上げてきましたが、「親会社による子会社の買収が増加!自社株保有の目立つ企業をチェック」(2021年掲載)の記事では、親子上場解消に関するテーマの記事もまとめています。どういった会社を取り上げているか、ぜひご参照ください。
資金力ある会社の子会社に注目、「親子上場解消銘柄」の検討は投資のチャンスに
実際、この記事で取り上げた日立物流は買収により上場廃止となっています。では現在、注目すべき会社はどういうものがあるでしょうか。上記のトヨタ自動車、NTT、三菱商事のように資金力のある会社が親子上場の解消に動く可能性もありそうです。そういった大きな会社が一定数を保有する会社を見てみましょう。
エムスリー(2413)はソニーグループ(6758)が筆頭株主です。三菱食品の買収発表時には伊藤忠商事(8001)傘下の伊藤忠食品(2692)も注目されました。伊藤忠商事は上場している会社の保有が大きく、伊藤忠エネクス(8133)、プリマハム(2281)、センチュリー21・ジャパン(8898)などの保有が目立ちます。伊藤忠はファミリーマートや伊藤忠テクノソリューションズ、最近ではタキロンシーアイなど子会社の買収にも積極的です。
トヨタグループでは、豊田通商(8015)がトーメンデバイス(2737)や第一屋製パン(2215)を保有しているのが目立ちます。三菱重工業(7011)は三菱ロジスネクスト(7105)、菱友システムズ(4685)、放電精密加工研究所(6469)などを保有しています。三菱電機(6503)はRYODEN(8084)、弘電社(1948)の保有が大きくなります。
各社の動きを見ながら親子上場解消銘柄を検討するのは引き続き投資チャンスがありそうです。注目してみてはいかがでしょうか。