先週(5月12日週)の動き:米中暫定合意のサプライズ、逃避マネーの流出でNY金は水準切り下げ、国内金価格は円高重なり大幅安

NY金はポジション巻き戻し的な売りが続く

先週(5月12日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、連日値動きの大きい不安定な取引が続き水準を切り下げた。週初5月12日に発表された米中の関税協議合意による税率の大幅引き下げを背景に、前週(5月5日週)前半までリスクオフ(リスク資産回避)センチメントの中で安全資産として逃避マネーを集めていた金市場では売りが先行した。

5月10~11日にスイス・ジュネーブで開かれた米中関税協議は、報じられたように双方ともに115%ポイントの関税引き下げを90日間の期限付きで合意した。わずか2日ばかりの協議で一定の合意に達したのは、ビッグサプライズとなった。一時3,500ドル超まで駆け上がったNY金の買い手掛かりは、先の見えなかった米中貿易戦争の米国と世界経済への押し下げ要因を警戒したものだっただけに、ポジションの巻き戻し的な売りが週を通して続いた。

週末5月16日には「米国と欧州連合(EU)が関税交渉を可能にするための行き詰まりを打開した」とする英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)の報道をきっかけに、ロンドンの時間帯に欧州株が買われる中で、時間外取引のNY金は水準を切り下げた。売り優勢の流れは当日のNY時間にも続き3,187.20ドルで終了。通常取引終値ベースで、4月10日以来約1ヶ月ぶりの安値となった。週足では前週末比156.80ドル(4.69%)の反落となった。

レンジは3,123.30 ~3,295.50ドルで値幅は172.20ドルと、前週の218.70ドルから縮小したものの、値動きは依然として大きい。

国内金価格は1000円以上水準を切り下げる

一方、国内金価格も上下動の大きな不安定な展開となった。水準を切り下げたNY金を受け大阪取引所の金先物価格(JPX金)は、米中協議合意を受け一時円安に動いた米ドル/円相場が、週末にかけて円高に転じたこともあり、下げ幅を拡大した。

前週には一時1万5843円と史上最高値を更新していたが、先週は一時1万4758円まで売られるなど、週末を挟み1000円以上水準を切り下げた。5月16日の終値は1万5100円となったが、週足は前週末比518円(3.32%)の反落となった。

レンジは1万4758~1万5712円で値幅は954円と4月7日週の962円に次ぐものとなった。5月15日には1日で前日比555円(3.6%)安と1日の下げ幅としては過去最大を記録した4月23日の597円安に次ぐものとなった。

ムーディーズ、米国債の格付け引き下げ

米格付け会社ムーディーズ・レーティングスは5月16日、米国債の長期信用格付けをトリプルAに相当する「Aaa」からダブルAプラスに相当する「Aa1」に1段階引き下げた。発表文でムーディーズは「米国が持つ経済面・金融面での強みは認識しているものの、これらの強みだけでは財政指標の悪化をもはや完全に相殺できないと考えている」とした。

もともと、同社はバイデン政権下の2023年11月に格付け見通しを(引き下げ方向を意味する)「ネガティブ」としていた経緯がある。2024年3月には米財政悪化や格下げの可能性を警告するレポートを出していた。

米最高格付け喪失 主要格付け3社出そろう

米国議会では折しも年末に終了する(2017年から続く)トランプ関税の延長や債務上限の引き上げを盛り込んだ、大型法案を調整中となっている。先週(5月12日週)は下院で財政緊縮を掲げる共和党一部議員が反対に回り注目されていた。

今回の格下げ発表は唐突に出された印象があるが、一定の予見性は市場の方にもあったのは事実だ。報じられているように米国の格付けはS&Pグローバル・レーティング(2011年8月)、フィッチ・レーテイングス(2023年8月)が先行して発表済みで、これで主要格付け3社のいずれでも米国は最上位格付けを失うことになった。

2011年格下げ時はNY金240ドル超上昇

米国債格下げを巡っては、2011年8月に突然スタンダード&プアーズ(現S&Pグローバル・レーティング)が発表した際は、市場の反応は大きなものだった。やはり影響を考慮し週末金曜日の夕刻に発表されたが、翌週の米国を中心に市場は大荒れ状態となった。

その際、NY金は売り買い交錯状態の中で史上最高値を更新。発表後11営業日で240.10ドル、14.5%上昇し、一時は1.900ドル超まで買われた経緯がある。リーマンショック後の経済混乱からの立ち直りの過程での予想もしなかった格下げ発表はビッグサプライズとなり反応も大きなものとなった。

今週(5月19日週)の動き:ムーディーズ米国債格下げは早期に消化見通し、FRB高官の発言続くも無風予想 NY金2,150~2,250ドルJPX金1万4800~1万5200円のレンジを想定

週明けの市場の反応は抑え気味

ムーディーズによる米国債格下げは、金融市場で主な取引が終了した5月16日夕刻に発表され、この時点での市場の反応は限定的なものにとどまった。

週明け5月19日の日本時間13時までのアジア時間では、米国債は週末の水準(10年債4.484%、時間外で一時4.499%)を挟んだレンジ取引で推移する抑え気味の反応となっている。ドル指数(DXY)も低下しているものの100ポイントを上回って推移している。NY金は前週末時間外取引の終値(3,205.30ドル)を上回る3220.00ドルで取引を開始。一時3252.90ドルまで急伸した後に売り優勢となり3.210ドル台での取引となっている。

今回の格付け引き下げについては、サプライズ感はあるものの先に書いたように予見されていた経緯があることから、市場の反応は抑えたものになっていると思われる。

米経済指標はPMI5月速報値に注目

今週(5月19日週)はこの米国債格下げのニュースを消化しながらも、金市場の動きは関税協議の象徴となっていた米中間の摩擦激化一巡を受け、弱含みながら取引は安定化に向かうとみられる。

米経済指標では5月22日(木)S&Pグローバルの米PMI(購買担当者景況指数)5月速報値が注目となる。今週はFRB(米連邦準備制度理事会)高官の少なくとも11名の発言機会が予定されているが、未だ関税の影響がハードデータに表れていない状況の中で、目立ったものはなさそうだ。

こうした中でNY金は3,150~3,250ドルのレンジでの取引を、JPX金は1万4800~1万5200円のレンジを想定している。