親の見守りをいつでも地域の人に頼めるわけではない

年末年始に実家へ帰省し、久しぶりに会った親の姿を見て、以前よりも年老いたと感じた経験はありませんか。離れて暮らす親を心配し、もしもの場合に備えて見守る方法を検討する方もいるでしょう。

実家のご近所や町内会など、地域の人と連携しながら親の見守りができれば理想です。しかし、自分が実家にいた頃とはご近所さんが変わっていたり、町内会とのつながりがそれほどなかったりする場合も多く、必ずしも見守りをお願いできるとは限りません。

また、地震や台風などの自然災害が起きたときや、深夜や早朝といった時間帯に親の様子が気になったときなど、地域の人に「親の様子を見てきてほしい」とは正直言いづらいものです。

こうした問題を解消するために、ネットワークカメラ(見守りカメラ)を実家に設置して親の見守りをする人が増えています。設置の際によくある2つの壁とその乗り越え方についてご紹介します。

見守りカメラを利用する人が増えた理由

東京と岩手を介護で行き来している私が、最初に見守りカメラを実家に設置したのは2013年です。当時の見守りカメラの値段は約3万円と高いうえに、画質が粗く、満足いくものではありませんでした。そのうえ、通信環境も不安定で、認知症の母の見守りができない日もありました。

近年はペットや育児など見守りカメラのニーズが増えたおかげで、見守りカメラの種類は増え、機能は向上し、価格も1万円以下で購入できるようになりました。また、通信環境も光回線などのブロードバンドが普及して通信速度が上がり、安定しました。

私が見守りカメラを使い始めた当時は、「親を監視しているようで嫌だ」という意見が多かったのですが、最近は「親の監視ではなく、あくまで見守り」と考える人が増え、見守りカメラへの心理的な抵抗感も薄れてきています。

見守りカメラを設置するうえでの「2つの壁」

1.インターネットの壁

見守りカメラを設置するためには、インターネット環境が必要ですが、そこが壁になるケースが多くあります。実家に固定のインターネット回線がないことから、工事の必要性や初期費用の高さ、手続きの面倒さなどの理由から、カメラの設置を諦める方がいます。

手軽にインターネット環境を整えたい方には、プラグをコンセントに差し込むだけで、インターネットが開通するホームルーターがあります。工事が不要なうえ、すぐ開通する点も魅力です。わが家では光回線を利用していますが、以前と比べるとインターネットの導入のハードルは随分低くなっています。

2.見守られる親の心理的な壁

見守りカメラの設置で最も高い壁は、親から「カメラで見守られなくない」と言われることです。

親が元気で、他人に頼らず問題なく暮らしている場合は、見守りカメラではなく人感センサーを設置してみてはいかがでしょうか。例えば、親が必ず行き来するトイレのドアなどに設置すると、ドアの開閉にセンサーが反応して、子のスマートフォンに通知が来て、親の生存確認ができます。

一方、親の健康状態に不安があり、子はカメラを設置したいものの親が嫌がる場合は、居間ではなく、玄関など少し離れた場所に見守りカメラを設置するのもおすすめです。親のプライバシーに配慮しながら、訪問販売などの防犯対策として使うところから始めてみましょう。親がカメラに慣れてきたら、居間や寝室などにも設置すると安心です。

見守りカメラを設置して良かったと実感した出来事

私はこの2つの壁を乗り越えて、現在は実家に6台の見守りカメラを設置しています。カメラを設置して本当に良かったと思った、ある事例をご紹介します。

東京に居た私は、いつものように実家の居間にいる母の様子を見守りカメラで確認しました。すると、見たことがない謎の男性が映っていました。最初は男性のヘルパーさんかと思ったのですが、契約している時間ではありませんでした。不思議に思いながら、母と男性の会話を見守りカメラで確認していると、男性がこう言ったのです。

男性「クーリングオフもできますよ」

「クーリングオフ?」ヘルパーさんなら、絶対に使わない言葉です。わたしは急いで実家に電話をして、母に横にいる男性に電話に出てもらうようお願いしました。

私「すみません、どちらさまですか? クーリングオフって、何のことですか? あなたの上にある見守りカメラで、ずっと会話を聞いていました」
男性「不用品買取業者のもので、今査定をしまして、お母さまに説明していたところでした」
私「必要ありません。今すぐ何も触らず、そのまま出ていってください。今すぐです!」
男性「分かりました、大変失礼しました」

男性が帰った後、録画された見守りカメラの映像を1時間前から確認してみると、玄関先で30分粘った業者が母を説得して、家に上がりこんでいたのです。見守りカメラを設置していたおかげで、母は不要な契約をせずに済みました。

不用品買取業者の他に、訪問販売業者を見守りカメラで撃退したこともあります。私が実家にUターンすることなく遠距離介護を続けられていられるのはすべて、見守りカメラのおかげだと思っています。みなさんも離れて暮らす親の“もしも”に備えて、見守りカメラの設置を検討してみるのはいかがでしょうか。