10月30日の朝、ビットコインが円建てで史上最高値を一時更新し、1BTC当たり1128万円をつけました(ブルームバーグ)。ドル建てでも3月の高値である7万3798ドルまでごくわずかに迫ってきていますので、記録更新は時間の問題と思います。ここまでの1年で、ビットコイン価格は約2倍になっています。

昨今のビットコインの強さの背景は、なんといっても「トランプ・トレード」です。一部の暗号資産アナリストは、ビットコインが2050年までに290万ドルに達する(ヴァンエック)というスーパー強気な見通しを公表しています。

かつて「ビットコインは詐欺のようだ」といった否定的な発言をしていたトランプ氏ですが、今回は、イーロン・マスク氏を始めとする業界からの支援によって、宗旨替えをしています。例えば、少し前には「ホワイトハウスに返り咲いたら米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長を解任し、仮想通貨業界に友好的な人物を後任に据える」などと演説しました。

SEC長官のすげ替えは大統領の権限で恐らく実現可能でしょう。しかし、強気派はもっと先を見据えています。例えば、暗号資産が中央銀行の準備資産になるとか、国際決済に使われるのでは、といった思惑です。

では、トランプ政権が実現した場合、本当に米国の準備資産に暗号資産を組み入れることはできるのでしょうか。そのためには、まず米国の中央銀行FRBによる決定が必要で、財務省との協議、そして、議会で連邦準備法の改正の手続きを経た後、大統領が署名をして手続きが終了します。仮に共和党が議会の過半数を握り、財務省の意思決定をおさえたとしても、まずは、政府から独立したFRBを動かす必要がありますし、もし暗号資産が準備資産に認められたとしても、実際に買うかどうかは実務上の判断にもなります。結局、暗号資産を準備資産に組み込むのは、たとえ大統領がそうした意向を持ったとしても、相当ハードルが高いと考えられます。

では、国際決済取引についてはどうでしょうか。既に、米国の経済制裁を受けているベネズエラでは、原油取引に暗号資産決済を進める方針であるなどと報じられています。このように、今後国際社会の分断が進むにつれ、米ドル離れが進む可能性はあるでしょう。ただし取引の決済通貨は、受け手側の意向もあるので、まずは価値が確立している金(ゴールド)などが優先されるでしょう。暗号資産の取引開始からまだ15年程度なのに対し、金の信認には5000年ともいわれる歴史があります。

大統領選までトランプ氏の優勢が続けば、夢はまだしばらく続きそうですし、長い目でみれば、ドル一強の現在の国際決済制度に風穴が空き、暗号資産が台頭する可能性も排除できないでしょう。しかし、短期的にみれば、トランプ・トレード後の現実は、そう甘くはないと考えられます。