具体的な事象から抽象的な概念を見出す力は、どのように育つのでしょうか。

自分を客観視したり、考えていることを抽象化したりできる大人は、意外と少ないように思います。一方で、抽象化に長けている人もいます。この違いは何なのでしょうか。

自分自身を振り返ると、大学と大学院で6年間受けた理系教育、とりわけ数学を通じた訓練が、抽象化する力の習得に大きく影響しているように思います。物事を因数分解する、共通項で括る、パターンを見つけ出してまとめる。そうした訓練を繰り返すうちに、いつしか世の中の出来事も同じように因数分解し、共通項で捉えるようになっていました。

例えば、料理のレシピを見ていて、「下準備→調理→仕上げ」という流れが、仕事の「企画→実行→振り返り」と同じ構造を持っていることに気づくことがあります。あるいは、子どもに勉強を教える際に「小さなステップに分解して一つずつ進める」という方法が、自分の仕事にも応用できると感じることがあります。

こうした体験を重ねるうちに、「数学で学んだ因数分解という手法は、まったく異なる領域にも応用できるのではないか」と考えるようになりました。領域を超えて共通項を探すことが習慣になると、物事を抽象化する機会は自然と増えていきます。そして、抽象化によって構造が見えた瞬間そのものが、喜びに変わっていきました。

もう一つ、身近な例を挙げてみましょう。起業家は結果にコミットするため、自らの体力やメンタルを管理し、パフォーマンスを高めます。同様に、プロアスリートも体力やメンタルに投資し、結果を追求します。一見すると異なる領域ですが、「結果で評価される立場にある人が、そのために自己管理へ投資する」という点では共通しています。

この構造に気づけば、起業家である自分はプロアスリートからも多くを学べるはずだと考えられます。経営に関する書物を読むだけでなく、アスリートのメンタルマネジメントやコンディショニングから学ぶことも、自身のビジネス成長につながるでしょう。抽象化することで、異なる領域からも学びを得られるようになるのです。

先日、YouTubeチャンネル「ブルーバックスチャンネル」で、数学者の加藤文元さんが次のように語っていました。

「数学はその成り立ちからして抽象化です。数を扱うことを考えてみても、例えば牛が2頭いることと、地球が2回転して2日が過ぎることは、具体的な事象は異なります。しかし、それらを『2』という同じ抽象概念で捉えること自体が、まさに抽象化なのです」

この言葉を聞いたとき、まさに自分が経験してきたことそのものだと感じました。

抽象化する力を身につけるためには、まず目の前の具体的な事象を因数分解してみること。そして、異なる領域に共通するパターンがないか探してみること。その小さな習慣の積み重ねが、やがて大きな力になるのではないでしょうか。