後編ではキャシー・ウッド氏にヒト型ロボットが日本で広がっていくか、イーロン・マスク氏が設立したxAI社の技術などについてインタビューしました。

>>>>【前編】「テスラの最大の期待、ロボタクシー」

>>>>【中編】「テスラ社が開発を進めるヒト型ロボットOputimus(オプティマス)の未来」

日本は革新的な気質がある国

ウッド氏:日本の少子高齢化問題は興味深い問題です。日本はロボティクスの分野で非常に進んでいます。実のところ、私が日本に来るのが大好きな理由の1つは、日本には非常に革新的なDNAがあると感じるからです。いくつか例を挙げましょう。

たとえば、ゲノム革命を考えると、京都大学の山中教授は幹細胞の研究で有名ですが、彼は非常に重要な役割を果たしています。ロボティクスにおいては、実は、現在、製造現場で目にする従来型のロボットに関して日本はアメリカよりも進んでいます。そして、今後それはヒト型ロボットへと進化していくでしょう。全世界を突き動かそうとしているマスク氏にもイノベーターの資質があると思いますが、ヒト型ロボットは日本では非常に早く普及すると思います。なぜなら、日本は天然資源が限られているため、エネルギー貯蔵技術がアメリカよりも何年も先を進んでいるような事例があるためです。

ブロックチェーン技術についても非常に興味深いです。日本では、規制当局が早い段階でその可能性を理解したと思います。FTXの悲劇が多くのルール整備を中断させたと思いますが、ブロックチェーン技術は日本で大きく発展するという予感があります。中国がビットコインのマイニング業者を停止させたとき、ビットコインのマイニングが日本で急増しました。つまり、中国から日本への大規模な移動があったということです。それについて、私たちは非常に興奮しました。そしてなんといってもAIについて、これはソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)の状況と非常によく似ているということを発見したことです。

SaaS初期の頃、私たちはセールスフォース[CRM]に投資していました。セールスフォースのCEOであるマーク・ベニオフ氏は「日本で何が起こっているのか分からないが、日本での売上がアメリカよりも急速に伸びているんだ」と言っていました。そこで、彼は実際に6ヶ月間日本に滞在して、日本市場を調査したそうです。このようにいくつかの理由から、日本は革新的な気質があると思います。だからこそARK社も日本と相性が合っているのだと思います。

xAI社にあってOpenAI社にないものは圧倒的な独自データ収集力

岡元:最後に、OpenAI社とイーロン・マスク氏が設立したxAI社の技術の違いについて、教えていただけますか?

ウッド氏:まず、ChatGPTを開発したOpenAI社は、大規模言語モデルの分野でリードしており、これまでもリードしてきました。すべてのモデルのパフォーマンスを追跡していますが、クローズドソースもオープンソースも、OpenAIは本当に最前線にいます。他の会社が追いついてきていますが、追いつかれそうになるとすぐにOpenAIは、またさらにその一歩先に進むのです。一歩先を行ってChatGPT-5を公開するのです。このような進化をみると非常に感心させられます。

xAIにあってOpenAIにないものは、テスラのグループ会社から得たプロプライエタリー(独自)のデータです。例えばX(旧Twitter)ですが、これはAIモデルをトレーニングするのに完璧なテキストデータを持っています。xAIは、テスラにある全てのデータや、ニューラリンク社のデータも使えるのです。つまり、医療やゲノム、マルチオミクスデータも取り入れることができるのです。地下交通システムとしてのボーリング・カンパニー社の技術もあります。そして宇宙技術もあります。ですから、テスラは他の誰も持っていない様々な種類で莫大な規模のデータを持っています。長期的には、勝者と敗者を分けるのは、この独自のデータだと考えています。現在、OpenAIはデータを購入しています。

xAIはおそらくデータを購入する必要はなく、サービスと交換する形で合意が行われるでしょう。「データを買います、代わりに大規模言語モデルや基盤モデルを提供します」といった形になるでしょう。私たちはこの競争についてとてもワクワクしています。オープンソース路線を進んでいるメタ・プラットフォームズ[META]を含め、この3社が最も興味深い大規模言語モデルの提供者です。私たちはアンソロピック社という会社にも興味を持っています。ですから、大規模言語モデルは、テスラを加えたこの4社が先導していくと思いますし、競争があることはとても望ましいです。なぜなら全てがより早く実現するようになるからです。

岡元:テスラはとても魅力的なグループ企業を持っている会社ですね。

ウッド氏:はい、そう思います。例えば、「コーディングにおいて非常に高性能の大規模言語モデルを構築しようとしているだけ」と思うかもれしませんが、実際は、OpenAIによって、コーディングの世界が劇的に変わっているのです。大規模言語モデルのおかげです。開発者の生産性は爆発的に向上しています。

私たちが学んだことは、大規模言語モデルにより多くのデータを投入すればするほど、データの種類は重要ではなくなるということです。なぜなら、すべてはパターン認識だからです。たとえば、ゲノムデータ(遺伝情報)やマルチオミクスデータ(人体の機能を司る様々な情報を一括して分析する手法)を考えると、それは生物システムが機能している状態です。生物システムはすべて生命の仕組みを扱っていますよね。つまり、それは非常に重要なデータなのです。そして、OpenAIは驚くべき方法で大規模言語モデルを改善していると思います。

岡元:これからの技術革新と発展が非常に楽しみですね。ありがとうございました。

※本記事は2024年9月25日に実施したインタビューを後日、翻訳編集・記事化したものです。