モトリーフール米国本社、2024年9月10日投稿記事より
クラウド大手各社は、エヌビディアからの脱却を模索している
半導体大手のエヌビディア[NVDA]が人工知能(AI)革命の第一段階において他社よりも優位な立場にあることに疑いの余地はないでしょう。2022年11月にオープンAIのChatGPTがデビューしたのをきっかけに、事実上すべての企業やクラウド大手が生成AIを動かすために、市場をリードするエヌビディア製の画像処理装置(GPU)を求めるようになりました。
当然ながら、圧倒的リーダーであるエヌビディアには強い価格決定権があり、それは過去1年半の間に同社の売上高の急増と利益率の急上昇が証明しています。
しかし、その反動として、クラウド・コンピューティングの大手各社は独自のカスタム・アクセラレーターに投資するようになり、そこにブロードコム[AVGO]やマーベル・テクノロジー・グループ[MRVL]といった特定用途向け集積回路(ASIC)企業が部分的に共同設計という形で関与しています。
カスタムASICの台頭で、エヌビディアへの需要は奪われるのでしょうか。ブロードコムのホック・タンCEOが先日の決算発表で発したコメントに、ヒントが隠れている可能性があります。
ブロードコムCEO「前四半期に考え方が大きく変わった」
先週、ブロードコムは2024年10月期第3四半期の決算を発表しました。業績はアナリストの予想を上回りましたが、ガイダンスはやや低調でした。
ブロードコムは半導体業界に幅広く関わっていますが、AI以外の事業の多くは2年ほど前から低迷しています。しかし、カスタムASIC、ネットワーキング、光インターコネクトといったAI関連事業は、いずれも好調です。カスタムASICに関しては、タンCEOはアナリスト向け説明会で、ブロードコムのAI ASICの売上高が過去1年間で3.5倍に増加したことを明らかにしました。
こうしたASIC事業を有するにもかかわらず、タンCEOは以前、半導体の歴史に倣い、AIアクセラレーター市場においては「汎用」市場、すなわちエヌビディアのような中立的な一般のサードパーティ半導体メーカーが最終的に勝利を収めるだろうと述べていました。
ところが9月5日にタンCEOはアナリストからの質問に対し、「考え方が大きく変わった。前四半期か、もしかしたら半年前に変わっていたのかもしれない」と述べました。
タンCEOは現在、クラウド大手各社が今後、独自の半導体を開発することによるコストメリットと、エヌビディアから主導権を少しでも取り戻すために、独自のカスタム・シリコンASICを使って大規模言語モデルのトレーニングを行うようになるだろうと述べています。
「こうしたGPU、あるいはXPU(混合型プロセッサ)はますます重要になっている。もしそうだとしたら、独自のカスタム・シリコン・アクセラレーターを開発することで、自らの運命を自らの手に取り戻す以上の良い方法はないだろう。各社がやっているのはそういうことだ。ただ、企業によってペースが異なり、やり始めた時期も違う。しかし、どの企業もすでに取り組み始めている。どの企業も、ASIC、またはXPUと呼ばれるカスタム・シリコンに向かって進むはずだ」
この発言はエヌビディアにとって何を意味するのか
エヌビディアはアナリスト向け説明会で、現時点で売上高の45%をクラウド・ハイパースケーラーから、50%超を大手インターネット企業やその他の企業から得ていることを明らかにしました。
一方で、ブロードコムのタンCEOの発言から、エヌビディアの売上高のかなりの部分を占める顧客が、代替ソリューションの自社開発を模索している可能性があることが読み取れます。
とはいえ、エヌビディアのクラウド関連需要がなくなってしまうと慌てる必要はありません。AI構築は依然として初期段階であり、顧客であるクラウド企業の多くは、社内の開発者がエヌビディアのCUDAソフトウェアを使い慣れていることから、引き続きエヌビディア製の最新かつ最高の半導体を使っています。クラウドベンダーの中には、何年も前からカスタムASICの開発に取り組んでいるところもありますが、それでもまだエヌビディア製GPUを大量に購入しています。エヌビディアの次世代半導体であるBlackwellは、2024年末ごろにリリースされる予定で、現在のHopperシリーズと比べて性能が飛躍的に向上するとみられています。
つまり、クラウドベンダーからもエヌビディア製半導体への需要は見込まれるということです。
エヌビディアの利益率とバリュエーションへの影響は
エヌビディア製品への需要が引き続き見込まれるとはいえ、同社がこれまで獲得してきたAI向け半導体で90%を超える市場シェアを維持するのは難しいと思われます。クラウド企業が独自のカスタムASICを開発し、低価格で顧客に提供するようになれば、各社の交渉力が強まり、値引きを要求してくる可能性もあります。
エヌビディアの株価が先日の決算発表後に下落した理由の1つは、粗利益率が過去最高を下回ったことで、2023年から2024年初めにかけて天井知らずと思われていた同社の価格決定力に限界があることが示唆されたためと思われます。
今回の株価下落により、エヌビディアのPER(実績株価収益率)は48倍、予想PERは36倍となっています。そのため、以前ほど割高ではなく、企業の質に対して法外なバリュエーションではなくなっています。
しかし、まだエヌビディアは現状では「割安」銘柄とは言えず、逆風や問題が浮上すれば変動が予想されます。そのため、ASIC競争であれ、AI市場全体に影響を及ぼす他の要因であれ、何らかの原因によって業績が減速すれば、株価上昇は制限される可能性があります。
免責事項と開示事項 記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。フェイスブックの元市場開発担当ディレクター兼スポークスマンであり、メタ・プラットフォームズのMark Zuckerberg CEOの姉であるRandi Zuckerbergは、モトリーフール米国本社の取締役会メンバーです。元記事の筆者Billy Dubersteinと同氏の顧客は、ブロードコム、メタ・プラットフォームズの株式を保有しています。モトリーフール米国本社は、メタ・プラットフォームズ、エヌビディアの株式を保有し、推奨しています。モトリーフール米国本社は、ブロードコム、マーベル・テクノロジー・グループの株式を推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。