900超の提案数となった米国、5つの人気トピック

世界各国の株主総会シーズンの閉幕から数ヶ月が経ち、2024年の株主総会シーズンを振り返る分析が次々と公開されている。世界の中でも上場企業への株主提案が最も活発に出されるのが米国だ。しかし、サステナビリティの動向を大きく左右する大統領選挙に伴う不確実性の高まりや、一部の共和党議員らが主導する反ESG運動、株主提案を制限する動きなどが出ていることから受難のときを迎えていると評されてきた。

しかし、予想に反して株主提案の数は増加したようだ。米国の法律事務所、Gibson Dunn が7月下旬に発表した報告書によると、ラッセル3000(米国企業の時価総額上位3000社)に提出された株主提案の数は前年同期比4%増の929件となり、2015年以降で最多となった。

Gibson Dunnによると、総会シーズンで人気を集めたトピックは、

1. 気候変動に関する議案
2. 人種差別防止や多様性関連に関する議案
3. 議案の決議にあたる単純多数決に関する議案
4. 取締役辞任細則に関する議案
5. 取締役会長の独立性に関する議案

の5つだったという。

株主提案をESG(環境・社会・ガバナンス)のカテゴリ別に分類すると、環境に関する議案は前年同期比3%減の182件、社会に関する議案は年前同期比4%増の308件、そしてガバナンスに関する議案は前年同期比13%増の204件となった。賛成比率をみると、ガバナンスに関する提案の平均的な賛成比率は2023年から向上している一方で、環境や社会に関する提案の平均賛成比率は減少したという。

 ESG、推進派も反対派も株主提案の賛成比率は伸び悩み

このような傾向の背景には、提案内容が企業の活動を縛りすぎているとの声がある。また、企業のコアな営業活動に密接に関連していない内容の議案が未だに多く提出されていると理解されている。Proxy Review(米国企業の株主総会における投資家の投票行動を分析する団体)によると、このことから、2024年の株主総会シーズンで「最大手の資産運用会社らが多くの株主提案に賛成票を投じることを取りやめた」ことも明らかになっているという。

実際、ESG推進派による株主提案の平均賛成比率は2023年においては21.5%まで低下した。史上最高を記録した2022年の33.3%から2年連続で低下していることになる。同時に、反ESG提案はまだ注目を集めているとは言えず、平均の賛成比率はわずか2.5%にとどまっている。

2025年以降の株主総会シーズンを見据え、気候変動に関する株主提案に関する分析や議論も数多くなされている。Proxy Review は気候変動による株主提案が高い賛成比率を獲得する事例が依然として数多く誕生していることを引き合いに「以前から株主の関心事であり、驚くにはあたらない」と主張している。実際、外食チェーンとして日本でも幅広く知られるデニーズに提出された気候変動に関する株主提案は49. 8%の賛成比率を獲得した。

AI使用や生物多様性など新たなテーマも登場

米国では食品業界に焦点を当てた新しい株主擁護団体Accountability Boardによる動きも活発だ。実際、外食チェーンを運営するDine Brandsに提出された株主提案は、4割を超える賛成比率を獲得している。気候変動とそれに伴う異常気象の増加は、農業と食料供給システムに重大な脅威をもたらすことから、投資家らは外食チェーンや食品を扱う企業に対し、化石燃料を扱う企業同様に温室効果ガス排出量と短期・中期・長期の排出削減目標を毎年開示するよう求めるようになっている。このような流れを受け、「気候変動リスクがエネルギー部門以外の産業部門にとっても重要な問題であることを投資家が認識しつつある」(Proxy Review)との声も多く出ている。

最も多くの議案が出た「社会」に関するテーマについても依然として投資家の関心は強い。株主擁護団体のAsYouSowが5年間にわたって1,600社を調査したところ、多様性の向上が財務上のパフォーマンスの向上につながることを示したという。このことから、株主は「より多様性に優れた企業は、ポートフォリオにおいて過大なウェイトを置くことになる」(AsYouSow代表のAndrew Behar 氏)という。

米国が選挙イヤーを迎えていることから、正確な情報流通を望む投資家の関心が反映され、企業に人工知能(AI) の使用について尋ねる株主提案も目立った。日本でも議論が加速しつつある生物多様性と自然を保護するための株主提案も続々と登場しているという。

日本に拠点を置く資産運用会社の議決権行使結果は9月末までに開示されることが多く、今後数ヶ月をめどに日本の株主総会シーズンの分析が進むことが予想されている。