マスク氏が最も注力するスペースX、「スターシップ」打ち上げに成功
イーロン・マスク氏が手がけるビジネスは多岐に渡っています。代表格はもちろんテスラ[TSLA]とスペースXですが、スペースXの中には衛星インターネットアクセスサービスを提供するスターリンクがあり、太陽光発電のソーラーシティは現在テスラに吸収されています。
ほかにもテスラとともにAIの開発を進め、「トゥルースGPT」を提供するxAIや、脳とコンピュータをつなぐインターフェイスを開発するニューラリンク、トンネル掘削会社のボーリング・カンパニー、さらには2022年に大騒動の末に買収したX(旧ツイッター)もあります。
確かにこれではマスク氏自身、「何に時間を使うべきなのでしょう。私のブレインサイクルは限られているし、1日に使える時間は限られています」と悩むのも当然ですが、やはり最も力を入れているのは、スペースXです。2024年6月、スペースXはテキサス州ボカチカから全長約120メートル(日本のH3が約63メートル)という史上最大のロケット「スターシップ」を打ち上げました。
これまでの打ち上げでは、上空で爆発したり、通信が途絶えるなどして、計画通りに地球に帰還することはできませんでしたが、4回目の今回、スターシップはブースター(スーパーヘビー)から分離して宇宙空間に到達後、地球への帰還に成功しました。同時にブースターもメキシコ湾の洋上に軟着陸することに成功し、マスク氏が目指す宇宙船とブースターの再利用が現実のものとなりつつあります。
宇宙開発で高まる「スペースX」の優位性
今回の成功により、現在でも世界のロケットの打ち上げの約半数を占めるスペースXはさらなる優位性を手にします。現在、スペースXはスターリンクを提供していますが、最終的には4万基以上の人工衛星を配備した、地球すべてをカバーする通信網の構築を目指しています。現在のファルコン9の数倍の積載量を誇るスターシップを使うことで、目標に一気に近づくことになるでしょう。
さらに、NASAが進める有人の月面着陸計画「アルテミス3」でもスターシップがその役目を担うほか、マスク氏が目標としてきた火星に人類を運ぶ計画へも一歩近づいたことになります。そして何より、機体の完全再利用は打ち上げ費用を劇的に引き下げるだけに、宇宙開発におけるスペースXの優位はさらに高まるでしょう。
高い目標を実現させるマスク氏の4つの仕事術
今回のスターシップの成果には、マスク氏の①不可能と思えるほどの高い目標を掲げる、②スケジュールは狂うが目標には必ず到達する、③人前での失敗を気にしない、④常識に縛られないものづくり(既製品の使用と驚くほど高い内製化率)といった仕事のやり方が寄与しています。マスク氏の「人類を救う」「複数の惑星に人類を」といったビジョンは荒唐無稽なものと思われがちですが、マスク氏の特徴は「高い目標を掲げながら現実的なスケジュールを着実にこなす」ところにあります。
マスク氏がテスラのCEОに就任した頃、世界の自動車メーカーの中にハイブリッドカーなどの電動車はともかく、電気自動車(EV)の時代が来ることを本気で信じていた人はほとんどいませんでした。事実、多くの人が乗りたいと思うような電気自動車はつくられていなかったわけですが、マスク氏は「秘密のマスタープラン」(現在は「秘密のマスタープラン」2もあり)を作成。高額な格好いい電気自動車からスタートして、徐々に安価な電気自動車をつくることで電気自動車の時代を切り開くことを考えたのです。
同時に電気自動車の普及にとって最大のネックとなっていた充電設備についても、自前のスーパーチャージャーを展開することで解決。今や世界の新車販売台数の18%が電気自動車となり、今後も伸びが期待されています。
マスク氏は「人類を火星に送りこむこと」を叶えるのか?
マスク氏の掲げる目標やスケジュールはいつも無茶なものが多いのですが、それでもどこかで達成するところに凄さがあります。そして、それを可能にしているのが、スターシップでもそうであったように、人前での失敗を決して恐れず、失敗してもほんの数ヶ月で再挑戦して結果を出すというマスク氏のタフネスさです。テスラでもスペースXでもマスク氏は何度も失敗していますが、「リスク覚悟で挑戦する-失敗する-失敗から学んで改修する-もう1度やる」というサイクルを圧倒的なスピードで回し続けることで不可能を可能にしてきました。これがマスク氏の流儀です。
現在、マスク氏の大きな関心は「最大真実探求AI」をつくり上げることと、スターシップをさらに改良して人類を月だけではなく火星に送り込むことにあるようです。まだ50代前半だけに、山とある課題を解決しながら、はたしてかつて口にしていた「火星で死にたい。衝突事故ではなく」が実現するかどうか、大いに期待したいところです。