2024年6月3日(月)23:00発表(日本時間)
米国 ISM製造業景気指数
【1】結果: 製造業景気指数は2ヶ月連続で景気縮小圏に
5月の米ISM製造業景気指数は48.7を記録し、前回結果・市場予想ともに下回る結果となりました。景気の境目となる50を2か月連続で下回り、米国の製造業は景気縮小圏での推移が続きます。
一方、経済全体では、42.5以上を記録すると一般的に景気拡大とみなされ、今回で49ヶ月連続の景気拡大となりました。
【2】内容・注目点:需要の軟化が目立つ。受注-在庫バランスの悪化で今後の生産減少も示唆
ISM製造業景気指数とは
ISM製造業景気指数は、全米供給管理協会が製造業300社以上の仕入れ担当者に生産状況や受注状況、雇用状況等の各項目についてアンケート調査を実施し、その調査を基に製造業全体のセンチメントを指数化した指数です。企業のセンチメントを反映しており景気転換の先行指標とされること、また主要指数のなかでは最も早く発表されることから注目が集まります。
総合指数の低下の主な要因は、新規受注の大幅低下
今回5月の結果は48.7を記録し、前回結果の49.2から下落しました。事前の市場予想では、49.6に小幅改善が見込まれていましたが、結果は市場予想に反して下落となりました。
図表2をみると、総合指数を構成する5要素(新規受注、生産、雇用、入荷遅延、在庫)のうち、新規受注の大幅低下(49.1→45.4)が総合指数の低下の主な要因となっていることがわかります。
生産指数は、主に企業がコロナウイルスのパンデミックによる過剰発注で発生した受注残の取り崩しに取り組んだため、需要が低迷する中でも50以上を保っていますが、受注残指数は42.4に低下しており、頼りの受注残も枯渇してきています。
また、以下の図表3の通り、新規受注の数値から在庫の数値を引いた値の推移をみると、今回5月は2023年の5月ぶりにマイナスに転落となりました。つまり、新規受注に対して在庫が過大な状況であるということであり、今後は在庫を減らすために生産を減少させていく可能性が示唆されます。
今回の結果に対し、ISM製造業調査委員会のフィオーレ委員長は、「減少こそまだ見られないものの、新規受注は鈍く、顧客は注文に慎重になっている。この状況が続くとしても、受注残はそこまで残ってはいない。いずれ、生産量は減少せざるを得なくなり、それは収益の減少を意味する。それにより、他の望ましくない要素が出てくることを懸念している」と述べています。
また、調査回答者のコメントを見ると、前回までは数値が50を下回っていてもコメントは比較的楽観的なものが多く見られましたが、今回5月は好調な家具業界を除いてほとんどの企業が景気の悪化や経済に対する懸念を示しています。
一方で、支払価格指数は57.0となりました。前回の60.9から3.9ポイント低下していますが、依然として高い水準にあり仕入価格の上昇によるインフレ懸念が続きます。
【3】所感: 悪いニュースは良いニュースか?景気減速による金利低下に戸惑う株式市場
ISM製造業景気指数の結果が、米経済の弱さを反映する内容であったことから、米金利は低下で反応しました。経済悪化による利下げ期待を反映した動きです。金利低下は通常株高要因となりますが、株式市場の反応はまちまちでダウ平均は下落、ハイテク株の多いナスダックは上昇となりました。
これまではいわゆる「バッドニュース is グッドニュース」として経済の減速を示す結果が出ても利下げ実施の期待から株高となる動きがよく見られましたが、本来経済の悪化は株式市場にとっては良くない材料です。足元では景気鈍化を示す指標に景気敏感銘柄がネガティブに反応しており、それをエヌビディア筆頭に一部のハイテク銘柄が下支えする相場となっています。
製造業の景況感は悪化を示しましたが、米国のGDPに占める製造業の割合は1割程度です。GDPの大部分(70%)を占めるサービス業の景況感(ISM非製造業景気指数)は6/5(水)に公表されます。
フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐