ジェフ・ベゾス時代の高値を更新したアマゾン・ドットコム[AMZN]の株価
米アマゾン・ドットコム[AMZN]の株価が2年9ヶ月ぶりに最高値を更新した。4月11日には一時、189ドル台まで上昇し、これまでの高値だった2021年7月の188ドル65セントを上回った。年初からの株価上昇率は約25%と、創業者であるジェフ・ベゾス氏の後継であるアンディ・ジャシーCEO(最高経営責任者)の体制で初めて、ベゾス氏がCEOを務めていた当時の高値を超えた。
ベゾス氏が退任した直後の2021年後半から2023年前半にかけてアマゾン・ドットコムの株価は下落した。業績は2022年12月期に最終赤字に転落し、その年の年間下落率は50%近くに達した。しかし、ここに来て目覚ましい復活を遂げている。
2月1日に発表された2023年第4四半期の決算は、売上高が前年同期比14%増の1699億6100万ドル、営業利益は4.8倍の132億900万ドル、純利益は38倍の106億2400万ドルに拡大した。
生成AI(人工知能)向け需要の拡大などで企業のIT投資が回復に向かっており、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の売上高は前年同期に比べて13%増加した。AWSは売上高全体に占める割合は14%に過ぎないが、営業利益は71億6700万ドルと、全体の54%を占めている稼ぎ頭だ。
日本経済新聞の4月13日付けの記事「アマゾン株、最高値更新3年弱ぶり、クラウドにAI追い風」は、クラウド基盤で世界シェア3割を持つ首位のアマゾン・ドットコムが、生成AIの普及に伴う成長を取り込むとの見方が強まっていると伝えている。
クラウドサービスは生成AIの開発や利用に欠かせない大量のデータ処理を担う。クラウドとAIの融合では米オープンAIと組むマイクロソフト[MSFT]が先行したが、アマゾン・ドットコムも3月までに米新興企業のアンソロピックに40億ドルを投資するなど追い上げを加速している。
ジャシーCEOは「顧客は用途ごとに異なる選択肢を欲しており、一つのモデルによる支配を望んでいない」と述べ、「生成AIは多くの顧客体験を再発明する機会を生むため、アマゾン・ドットコム全体で重点投資を続ける」と語った。
アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)の成長は2024年も続く見通し
シンガポールに本拠を置く調査会社のCanalysが2月26日に発表したレポートによると、2023年第4四半期の世界のクラウド・インフラ・サービス支出額は781億ドルに達し、前年同期比19%増、額にして123億ドル増えた。
AIアプリケーションの普及を中心とした新たな需要が急増しており、クラウド移行への取り組みが再び活発化している。AWS、マイクロソフトAzure、グーグルCloudのハイパースケーラが、生成AIへの投資を着実に拡大している。2023年第4四半期はクラウドプロバイダー上位3社で総支出の66%を占めた。
Canalysは、2023年第4四半期時点におけるAWSのバックログ(顧客がコミットした将来の支出)は1557億ドルと前年同期に比べて450億ドル以上増加、AWS成長率の上昇基調は2024年も継続すると予想している。
パブリッククラウドはデジタル化の推進に大きく寄与する社会の重要インフラであり、クラウド事業の成長は他のIT事業の成長を大きく上回っている。
また、調査会社のガートナーによると、アプリケーションソフトウェア、インフラソフトウェア、ビジネスプロセスサービス、システムインフラ市場のうち、クラウドに移行可能なカテゴリを対象とした調査で、2025年にはパブリッククラウドへの企業投資が、従来のITへの支出を追い越すと予想している。
アンディ・ジャシーCEO、次の成長の柱となりうる生成AIへのアプローチを強調
アマゾン・ドットコムの株価が高値を更新した4月11日は、アマゾンのアンディ・ジャシーCEOが「株主への手紙(年次書簡)」を公開した日でもあった。手紙の中でジャシーCEOは、「生成AIはクラウド以来、おそらくインターネット以来の最も大きい技術の変革になるかもしれない」とし、生成AIの分野での主導権を確保するために投資を行っていると述べ、次の成長の柱となりうる生成AIへのアプローチを強調した。
書簡では次のように記している。
次の柱は何かと聞かれることがある。これは示唆に富む質問だ。しかし、人々が決して尋ねない、そしてもっと興味深い質問は、画期的な顧客体験を可能にするためにあなたが構築しているものは何かと聞かれたら、私は生成AIを取り上げるだろう。
最近、私は「アマゾンはなぜ強靭でいられるのか」というチャレンジングな質問を受けた。シンプルな表現ではあるが、これまでの成功の核心に迫るものであり、また未来に向けたものでもあるため、深い意味を持っている。その答えは、深く心に刻まれた原則に基づく私たちの規律にある。
1)可能なことを継続的に改善し、拡大することに意欲的なビルダーを雇うこと
2)面白そうなテクノロジーではなく、顧客の真の課題を解決すること
3)最高の速度で革新と実験ができるよう、基盤を構築すること
4)重力と戦おうとして時間を無駄にしないことーより良い顧客体験を可能にするテクノロジーを発見したら、それを採用すること
5)失敗した実験を受け入れ、そこから学ぶことー実際に、採用すべき新たな知識を得て、再挑戦への活力を高める世界全体では、十分なブロードバンドアクセスを持たない何億もの人々が、今後数年のうちに接続を獲得するだろう。最後になるが、生成AIは、クラウド(それ自体はまだ初期段階だが)以来の、そしておそらくインターネット以来の、最大のテクノロジー変革かもしれない。
オンプレミス(システムの稼働やインフラの構築に必要となるサーバーやネットワーク機器、あるいはソフトウェアなどを自社で保有し運用する)のインフラからクラウドへの大規模な近代化とは異なり、移行には作業が必要だが、生成AI革命は最初からクラウド上で構築される。実現するソリューションがもたらす社会的・ビジネス的利益の大きさにわれわれは驚かされることだろう。
アマゾンの歴史の中で、お客様の生活をより良く、より簡単にする機会がこれほど多くあると感じた時はなかった。私たちは何が可能なのか、未来を発明することに集中し、それを実現するために共に働くことを楽しみにしている。
生成AIは間違いなくアマゾン・ドットコムにとって重要な成長ドライバーのひとつだ。特にAWS関連においては生成AIの開発支援に多額の投資を行っている。一方、アマゾンは社内でも生成AIを活用している。ジャシーCEOは2023年第4四半期決算の電話会議で、「(生成AIは)今後数年間で、最終的にアマゾンに数百億ドルの収益をもたらすと信じている」と述べた。生成AIが業績に与える真のインパクトを実感できるのはこれからだろう。