トランプ氏の懸念がありつつも、再生可能エネルギーの重要性は高まっている

2024年11月に投票が行われる米大統領選挙を前に、民主党と共和党は年明けから予備選挙を行ってきました。このうち共和党はトランプ前大統領が序盤から連勝し、早くも指名争いに決着をつけています。

世界中が「もしトラ」に身構える中、米国の産業という目線で考えた場合、クリーンエネルギーセクターへの影響が注目されそうです。というのも、トランプ氏は地球温暖化対策の国際的枠組みを軽視するというよりも敵視するという感じで、実際に前回の大統領任期中に「パリ協定」から離脱しました。2021年1月に民主党のバイデン政権が誕生すると即座に復帰の手続きを取り、翌月に再加盟を果たしましたが、「もしトラ」が実現すれば国際協力軽視のリスクが再燃しそうです。

先頃には、バイデン政権が米国の液化天然ガス(LNG)輸出の新規許可を凍結したことで波紋が広がりました。地球温暖化など、環境への影響を盛り込んだ新たな審査基準を策定する方針を示しましたが、これに猛反発したのが石油業界とトランプ氏です。トランプ氏は大統領選挙の公約に「新規許可凍結の解除」を掲げています。

ただ、米国でも再生可能エネルギーを重視する流れは強まっています。米国のエネルギー情報局(EIA)が発表したリポートによると、2023年の国内発電量は前年比1.4%減の4兆182億キロワット時(kWh)で、電源別の内訳では石炭が19.4%減の6660億kWhと縮小する半面、太陽光が13.6%増の1623億kWhに伸びています。

風の状況に左右される風力発電は1.4%減の4281億kWhとなりましたが、発電能力自体は段階的に増強されており、今後も伸びると見込まれています。化石燃料の中では環境負荷が小さいとされる天然ガスが6.9%増の1兆6914億5472万kWhでした。

EIAは今後について再生可能エネルギーの存在感が一段と高まると予想しています。2025年の電源別発電量の予想では、太陽光発電が2868億kWhに達し、2023年比で76.7%増えると見込んでいます。風力発電が同10.1%増の4713億kWhに達する半面、石炭火力発電が14.3%減の5705億kWhに落ち込む見通しです。

再生可能エネルギーへのシフトは後戻りできない段階に達しており、トランプ氏が再登板した場合でも国内の電力供給に関して時計の針を逆回転させるのは難しいと予想されます。今回は再生可能エネルギー事業を手掛けるクリーンエネルギー関連の銘柄をご紹介します。

再生可能エネルギー事業を推進する注目のクリーンエネルギー関連銘柄

ネクステラ・エナジー[NEE]、北米で最大級の電力会社

ネクステラ・エナジーは北米で最大級の電力会社です。時価総額は2月23日時点で1165億ドルに達しており、S&P500の公益セクター30銘柄の中で時価総額が1000億ドルを超える唯一の銘柄です。

主力は傘下のフロリダ・パワー&ライト(FPL)を通じて米フロリダ州で展開する電力事業です。発電、送電、配電を総合的に手掛けています。2023年末時点のフロリダ州での送電線の総延長は9万マイル(約14万4,841キロメートル)、変電所の数は883ヶ所です。

フロリダ州では一般家庭と商業向けに都市ガス事業も手掛け、電力事業を合わせた顧客数は590万件。約1200万人にサービスを提供しています。

2023年末時点の発電能力は3万3,520メガワット(MW)で、自社が所有する設備の発電能力はうち3万3,276MWです。電源別では天然ガス発電の2万4,254MW、太陽光発電が4,803MW、原子力発電が3,502MWの順で続きます。

FPLは2019年に同業のガルフ・パワーを買収し、2021年に吸収合併して業容を拡大しています。FPLの事業が2023年12月期の売上高に占める比率は65%、純利益に占める割合は56%です。

FPLは太陽光発電の比率が比較的高く、石炭火力発電からの撤退を進めるなど環境配慮型といえそうですが、本格的なクリーンエネルギー事業は傘下のネクステラ・エナジー・リソーシズ(NEER)を軸に展開しています。

NEERは米国とカナダで再生可能な電源を用いた発電事業を手掛けており、発電能力は3万600メガワット(MW)です。米国では41州に発電設備を持ち、発電能力は計3万80MW、カナダでは4州で520MWです。

電源別の発電能力では風力発電が2万147MWに上ります。全体の66%を占めて最大で、以下は太陽光発電が19%、原子力発電が7%、天然ガスを含むその他が8%です。

また、電池貯蔵事業にも投資し、貯蔵容量は2,624MWに上っています。この事業では再生可能エネルギーを生産する事業者と提携する取り組みにも積極的です。米アリゾナ州では電気と水道を供給する公益事業者、ソルト・リバー・プロジェクト(SRP)と提携。2023年12月には太陽光で発電した電力を貯蔵する取り組みを始動させています。

クリーンエネルギー事業の2023年12月期の売上比率は34%、純利益比率は44%です。現状では売上高や利益が不安定ですが、大きく伸びるポテンシャルを持つ事業分野といえそうです。

【図表1】ネクステラ・エナジー[NEE]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表2】ネクステラ・エナジー[NEE]:株価チャート
出所:トレードステーション

ファースト・ソーラー[FSLR]、太陽電池モジュールで奮戦

ファースト・ソーラーは太陽光発電に使う太陽電池モジュールの開発と製造を手掛けています。世界では中国勢が市場を席巻していますが、米国勢として奮戦し、牙城を守っている印象です。

多結晶シリコンまたは高純度の単結晶シリコンを使った太陽電池モジュールが主流という世界市場の趨勢に反し、ファースト・ソーラーは薄膜太陽電池モジュールを生産しており、この分野の世界最大手です。薄膜太陽電池モジュールは結晶シリコンを用いた製品に比べて発電効率は劣りますが、製造や加工が容易、軽量、高い耐熱性といった特徴も備えています。

ファースト・ソーラーは製品の開発から製造、応用まで垂直統合型のビジネスモデルを持っています。生産施設は米国3ヶ所に加え、マレーシアとベトナムに保有しており、2023年には新たにインド工場を稼働させました。2024年中に米国で第4工場を操業させる計画を進めるなど生産能力の増強に余念がありません。

研究開発では過去10年間で10億ドル以上を投資するなど製品の改良を積極的に進めてきました。太陽電池モジュールの出力と発電効率をはじめ、耐久性、生産効率、原材料コスト削減などに焦点を当てています。

研究開発の新たな試みとして、新型の薄膜と太陽電池モジュールのプロトタイプ製作機能を米国の研究開発施設内に設ける計画です。投資額は約3億ドルで、2024年中に完成する見通しです。

主要市場は米国で、2023年12月期の売上高の約96%を占めています。2023年末時点で米国の太陽光発電能力は約160ギガワット(GW)に上っており、政府は2027年までに発電能力を倍増させる方針です。

また、ファースト・ソーラーはインド市場の成長を見越して建設した工場を通じ、製品を安定的に供給する意向です。2024年1月にはインド南部のタミルナドゥ州に建設した工場への電力の供給を受けることで、インドの再生可能エネルギー事業者、クリーンテック・ソーラーと契約を結んでいます。

【図表3】ファースト・ソーラー[FSLR]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表4】ファースト・ソーラー[FSLR]:株価チャート
出所:トレードステーション

エンフェーズ・エナジー[ENPH]、マイクロインバーターを開発

エンフェーズ・エナジーは太陽光発電向けマイクロインバーターの開発を手掛けています。マイクロインバーターは直流を交流に変換する小型の電子機器で、パネルごとに取り付けます。複数のパネルをまとめて直流を交流に変換するパワーコンディショナー方式に比べ、システムダウン時のリスク分散やパネル増設の簡便さといったメリットがあるようです。

対象になるのは住宅や商業施設向けの太陽光発電システムです。エンフェーズ・エナジーにとっての主な市場は米国をはじめ、カナダ、メキシコ、欧州、オーストラリア、インド、ブラジル、フィリピン、タイ、南アフリカなどで、最新のマイクロインバーター「IQ8シリーズ」は合わせて21ヶ国に出荷しています。

マイクロインバーター方式は欧米で先行した経緯があり、エンフェーズ・エナジーも米国と欧州での売上比率が高いようです。2023年12月期の売上高全体に占める米国の割合は64%と地域別で最大です。また、オランダ1ヶ国で売上高全体の15%超を占めています。

一方で、エンフェーズ・エナジーは太陽光発電システムの一環に位置づけられる蓄電池の開発も手掛けています。「IQバッテリー」貯蔵システムというブランド名で事業を展開し、北米をはじめ、ベルギー、ドイツ、オーストリア、オランダ、スイス、スペインなどに出荷しています。

この他にも電気自動車(EV)の普及を受け、チャージャーの開発も始めました。WiFiの通信機能を搭載して制御・監視能力を備えた「IQ EVチャージャー」を米国とカナダに投入しています。

エンフェーズ・エナジーのデバイスの設計やシステムの開発を手掛けますが、製造は外部に委託しています。電子機器の製造受託サービス(EMS)の世界的な大手であるシンガポールのフレックス、フィンランドのサルコンプ、中国の欣旺達などが製造を請け負います。

米国の上場企業の例に漏れず、積極的な買収を通じて業容の拡大を図っています。2018年には太陽光発電ソリューションを手掛けるサンパワーからマイクロインバーター部門を買収。2022年には家庭用のエネルギー機器を管理するソフトウエアの開発会社、グリーンコム・ネットワークスを買収しています。

【図表5】エンフェーズ・エナジー[ENPH]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表6】エンフェーズ・エナジー[ENPH]:株価チャート
出所:トレードステーション

サンラン[RUN]、住宅用の太陽光発電システムを提供

サンランは米国で住宅用の太陽光発電システムの設計、開発、据え付け、販売、所有、保守などを組み合わせたサービスを提供しています。「to create a planet run by the sun(太陽で運営する地球を創る)」というビジョンを掲げ、太陽光発電の普及を後押ししています。

中核となるのは太陽光発電システムを一般家庭向けにリースする事業です。システム一式を一般家庭に貸し出す契約と発電した電力を割安な価格で購入してもらう契約を同時に結ぶケースが多いようです。一般家庭は太陽光発電システムを借り受けるのではなく、購入するオプションもありますが、そちらを選択するのは少数派ということです。

リース形式にすることで一般家庭には太陽光発電システム購入の初期投資負担をなくし、わずらわしい手続きを回避できるというメリットがあります。また、サンランが管理・保守を請け負うので、修理費用などの負担も回避できます。

こうしたビジネスモデルが支持され、サンランは着実に契約数を伸ばしています。2023年9月末時点のネットワーク全体の発電能力は前年同期比19.8%増の6,462メガワット(MW)で、住宅の太陽光発電システムとしては米国最大を誇ります。顧客数は18.9%増の90万3,270件に達しています。 

【図表7】サンラン[RUN]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表8】サンラン[RUN]:株価チャート
出所:トレードステーション

クリアウェイ・エナジー[CWEN]、再生可能エネルギー事業を展開

クリアウェイ・エナジーは再生可能エネルギーを中心に発電事業を展開しています。2023年9月末時点の発電能力は出資比率に基づく権益ベースで8,140メガワット(MW)です。

2022年に親会社であるクリアウェイ・エナジー・グループの株式50%を買収したフランスのエネルギー大手、トタルエナジーズが主要株主に名を連ねています。

内訳は風力発電が3,658MW、太陽光発電が分散型を含めて2,010MW。合わせて5,668MWに達しており、再生可能エネルギー事業者としては米国でも最大級です。比較的環境負荷の小さなガス発電を含む従来型設備の発電能力は2,472MWです。

2023年1-9月期の業績は売上高が前年同期比15.5%増の10億6500万ドルに達しましたが、前年同期に12億9100万ドルの売却益を計上した反動で、純利益は92.6%減の4200万元に縮小しました。

セグメント別では、再生可能エネルギー部門の売上高が35.9%増の7億2300万ドル、営業利益が6.1倍の1億9400万ドルと好調でした。従来型発電部門は売上高が9.3%増の3億4200万ドル、営業利益が17.1%減の1億2100万ドルと増収減益です。

【図表9】クリアウェイ・エナジー[CWEN]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表10】クリアウェイ・エナジー[CWEN]:株価チャート
出所:トレードステーション