2024年の新年が明けて以降、株式市場は勢いのある展開となっています。2023年末のコラムでは2024年を「史上最高値を狙う1年」と位置付けましたが、まさにその期待通りのスタートダッシュになりました。
やや急速な上昇ピッチへの警戒感から今後は一旦調整が入ってもおかしくないと考えますが、それは「持続的な上昇」となるためには健全な流れと言えるでしょう。むしろ、「下がったところは拾っておきたい」という向きが着実に増えていると考えれば、その調整も大きなものにはならないのでは、と予想しています。
逆にリスク要因として考えられることは、国際緊張の高まりや中国景気の失速顕在化、米金利引下げ観測の後退などでしょうか。これらについては、日々の報道から変調の兆しはないか、しっかり注視していきたいところです。
懐疑フェーズに差し掛かった核融合発電
さて、今回は「核融合発電」をテーマに再び採り上げてみましょう。前回、このテーマを採り上げたのはおよそ半年前で、「核融合市場研究会」の設立をきっかけにしたものでした。この時のコラムでは核融合発電技術のあらましと、それが実社会に与えるインパクトについて解説し、まだまだ「お話」の域を越えるものではないことを説明しました。
しかし同時に、株式市場においては(実用化がまだかなり先であるとしても)その可能性がわずかでも高まってくると株価は大きく反応することも付け加えています。「相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」(ジョン・テンプルトン)という私の座右の銘に則ってみると、核融合発電はまさに懐疑フェーズに差し掛かりつつあると言えるのかもしれません。多くの「夢の技術」は楽観フェーズに進む前に頓挫してしまうのですが、核融合発電がそれらと違って楽観フェーズへとシフトできるのかどうか、強い関心を持って注目したいと思っています。
2024年3月には産官学連携の「核融合産業協議会」が発足
そうした中、2024年3月に発足予定の産官学連携組織「核融合産業協議会(一般社団法人フュージョン エネルギー フォーラム(仮))」に、およそ50の企業・団体が参加するとの報道が2023年末に出てきました。日本政府が音頭を取ったこの取り組みは、「この指止まれ」に実際に多くの民間企業・団体が参加することで一気にリアリティが増してきたと言えるでしょう。
懸念材料としては、経験則的に政府が主導する先端技術プロジェクトがうまくいった試しはあまりないということでしょうか。これは血税を無駄に使ってはならないという公的機関の思考や時間軸が、時にアニマルスピリッツを発揮して「損して得とれ」的なアプローチが求められる民間、特に先端領域におけるそれとは全く異なっていることが原因と思われます。
しかし、このプロジェクトにおいては発起人が民間組織で占められており、政府は裏方支援に回っているように思えます。上記懸念点の完全払拭は無理だとしても、基本的に民間目線でプロジェクトは進行するものと期待したいところです。
ちなみに、このフォーラム発起人企業は現時点で19社が明らかとされており、三井物産(8031)、日揮ホールディングス(1963)、フジクラ(5803)、古河電気工業(5801)、住友商事(8053)、三井不動産(8801)、NTTデータグループ(9613)、MS & ADインシュアランスグループホールディングス(三井住友海上火災保険)(8725)、IHI(7013)、三菱重工業(7011)、INPEX(1605)、三菱商事(8058)といった上場企業12社(順不動)に加え、未上場企業3社、核融合に特化したスタートアップ企業4社が名を連ねています。
古河電工、フジクラ、住友商事といった企業は米英の核融合炉開発企業への部材納入や出資でも実績を残しており、そのような知見やそこから体得したスピード感はフォーラム運営の大きなメリットになることでしょう。発起人会は今後、フォーラムの設立準備を進め、核融合発電の実用化・産業化に向けての仕組みを構築していく基盤になるものと予想しています。
投資目線では時間軸、も重要。「夢の技術」によるブレイクスルーにも期待
とはいえ、現在のロードマップにおいて核融合発電の実用化への準備が完了するのは2050年頃と言われています(令和元年文部科学省)。仮にそうであれば、実際に普及が進むのはそれ以降になるということなのでしょう。リアリティが増してきているとはいえ、そのような単位の時間を要するだろうことは株式投資をするうえで忘れてはいけません。まだしばらくは産業としてのリアルな成長よりも、可能性や期待に一喜一憂するフェーズであることは肝に銘じておくべきです。
もちろん、早ければ2024年にも核融合発電を始めようというベンチャー企業も出現してきているため、この時間軸が大幅に短縮される可能性もあるのは確かです。実際、安全性・脱炭素を両立しつつ増加するエネルギー需要に対応していくには、このような「夢の技術」によるブレイクスルーが大きな鍵となることに議論の余地はありません。
そして、本当にブレイクスルーがあれば、現在想定されているロードマップは一気に陳腐化し、全く新しい時間軸が語られることになるはずです。以前、こちらのコラムで全固体電池について採り上げた際に、それが実現すれば市場の勢力地図を塗り替えるゲームチェンジャーになると解説しましたが、同じことがこの領域でも起こり得ると考えます。
残念ながら、そのようなブレイクスルーをどのような企業が引き起こすのか予想することは困難を極めるのですが、誰がそれを実現するとしても、核融合設備に用いられる部品や素材などにおいてプレゼンスの高い日本企業の製品を使用する(使用せざるを得ない)公算は高いと考えます。もしかすると、(半導体のように)日本企業の「お家芸」たる、そのような部品・材料・素材が大きく注目される領域になっていくのかもしれません。