先週の日銀政策決定会合でイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用柔軟化が遂に打ち出されました。このコラムでも何回か触れてきた通り、徐々にでも金融緩和政策の軌道修正を行っていくというスタンスが提示されたと言えるでしょう。

これに対し、株式市場では当初こそ日経平均が乱高下するなど見方が交錯したものの、徐々に抑制の効いたこの修正策への安心感が広がってきたように思えます。これまではかなり神経質な動きを余儀なくされてきましたが、日銀のスタンスが見えたことで、今後の株式市場はむしろ仕切り直しへとシフトするのではないかと予想します。折しも、第1四半期決算はこれまでのところ、好調を示す企業が多いように感じています。2023年の夏相場は夏枯れならぬ、サマーラリーになるのではと期待しています。

トヨタ自動車の株価上昇、2027年に全固体電池を実用化へ

さて、今回は「全固体電池」をテーマに採り上げてみましょう。全固体電池とは電池の一種で、その性能や安全性といった観点から、ある意味「究極の電池」と位置付けられる注目の製品です。しかし、実用化にはまだ至っておらず、現時点では「お話」の域を出ない状況にありました。

そのような中、6月中旬にびっくりするようなニュースが飛び込んできました。トヨタ自動車(7203)が「2027年にも全固体電池を実用化する」というのです。これを受けて、同社の株価は発表翌日に急騰し、一時は8%もの上昇を演じました。国内最大の時価総額を有する同社の株式がここまで一気に変動することは稀です。それだけ株式市場にはサプライズが大きかったということだったのでしょう。

全固体電池はEV普及のゲームチェンジャーとなるか

全固体電池が「究極」と目されるのは、通常のリチウムイオン電池などが液体の電解質を使用しているのに対し、固体の電解質を使用することにあります。

つまり、固体とすることで電池容量を飛躍的に高め、かつ液漏れ(や発火)などのリスクを排除することができるようになるのです。電気自動車(EV)の普及には、その航続性への信頼性やより簡単な充電が必須ですが、全固体電池を使用すれば、小型の電池サイズで航続距離の延伸を図ることができます。充電時間の短縮も期待でき、それはEVユーザーへの利便性を改善させることにも繋がるでしょう。当然、電池の安全性向上も大きなメリットです。

現在、EVは既に世界中で急速に普及し始め、そのメジャープレイヤーの顔ぶれも徐々に固まりつつあります。(日本でも家電量販店大手のヤマダホールディングス(9831)はEVの販売に着手することとなりました。これについては、また別の機会にテーマとして採り上げたいと思います)

しかし、全固体電池が実用化されれば、その圧倒的な性能差から一気に市場の勢力地図を塗り替える可能性があると言えるのです。特にトヨタ自動車はハイブリッド車(HV)への注力からEV化の出遅れが指摘されていただけに、全固体電池実用化の先行はEVにおける立ち位置巻き返しの起爆剤になる可能性があるでしょう。

これはEV先行企業の電池設備で陳腐化が進みかねないという効果と併せ、同社がEVにおいてもリーディングカンパニーの地歩を固めるきっかけになるのかもしれません。実用化の発表で株価が大きく反応したのは、まさにそういった期待が反映されたのではないかと考えます。

全固体電池関連で投資妙味のある銘柄

なお、トヨタ自動車が具体的にどういった部材を使用するのか、その詳細については現時点では明らかにされていません。単純に考えて、正極材、負極材、電解質が必要になるのですが、どこまでを自社開発品で対応するのか、どういった部材が外部調達されるのかも不明です。

全てが自社完結でないとすれば、全固体電池ではトヨタ自動車の他、パナソニック ホールディングス(6752)や村田製作所(6981)、富士フイルムホールディングス(4901)なども積極的に特許を出願しているため、トヨタ自動車の全固体電池構想が明らかになるにしたがって、こういった企業との関連も取り沙汰されるようになるのかもしれません。

もちろん、現時点で予想もつかない部材に関しても、今後の報道に要注意ということにならざるを得ないでしょう。全固体電池という壮大なテーマの裾野が広がってくるのはこれからと考えます。

悲観や懐疑が主流の時こそ、その可能性に注目

とはいえ、トヨタ自動車の想定通りに全固体電池を実用化できるかどうかも厳密にはまだ不透明な部分があることも忘れてはいけません。そもそも、新製品上市のタイミングが当初想定から大幅に遅延してしまうという例は枚挙に暇がないのです。

まして、全固体電池はこれまで多くの企業や研究機関が実用化を試みて実現できなかったというシロモノです。この発表を聞いて、まだ「俄かには信じられない」と受け止めた関係者も少なくなかったはずです。期待は高いとしても実態が確認できるまでには、やはり時間が必要ということは肝に銘じておくべきなのです。

それでも面白いのは、資本市場がそういったリスクを認識した上で反応してくるところです。私の座右の銘に、“相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく”というのがあります。悲観や懐疑が主流の時こそ、可能性に注目することが重要であることを教えてくれています。これだから株式投資は止められないですね。