水道スマートメーターの世界大手。IoT対応の新技術でさらに需要拡大

バッジャー・メーター[BMI]は米ウィスコンシン州ミルウォーキーに本社を置く、流量測定および制御製品の大手メーカーです。液体や気体の流れを測定および制御するための製品やソフトウェア、通信ソリューション、また水質監視のソリューションを提供しています。

水道スマートメーターでは世界的大手。製品は、水道メーター・関連システム、廃水メーター、工業プロセスメーター、自動車用流体メーター、小型バルブ、天然ガス機器などがあります。製品の約85%以上が水関連で使用されており、顧客は上下水道事業をはじめ、暖房、換気、空調、石油・ガス、化学・石油化学など、さまざまな産業に渡ります。

同社の主要製品である水道スマートメーターは、水不足と効率的な利用の必要性の高まりを背景に、世界中で採用が加速しています。日本では電気やガスに遅れましたが、2019年に改正水道法によって開発と採用が促されることとなりました。

水道スマートメーターの利用は、スマート水管理(SWM)と呼ばれ、水道網からリアルタイムでデータを収集、共有、分析する情報通信技術(ICT)ソリューションを意味します。その役割は単に水道料金決定のための使用量測定に留まらず、漏水や水道管劣化の検知、機器故障の検知などまでカバーしています。

このようなメリットが、非収益水(NRW:漏れやパイプの破損などによって失われる水)の削減や使用量の最適化、適切なメンテナンス、また、現地検針不要の観点から人件費削減という効果を生みだしています。

最近では、IoT対応のAMI水道スマートメーターの需要が拡大しています。「AMI」とはadvanced metering infrastructure=高度計測インフラの略で、通信機能や端末機器等の管理機能を持つ高機能型のメーターのことを指します。遠隔監視や漏水検知の機械間(M2M)通信が可能であることから、様々な産業の多くがAMIへ切り替わりつつあります。

グローバルインフォメーションによると、AMI水道スマートメーターの世界市場は、2023年から2032年にかけて29.3%のCAGRで成長すると予想されています。特に米国はスマート水管理の採用に積極的で、現在10を超えるスマートシティプロジェクトの中で、例えば、既存メーターを可視性の高い超音波メーターに切り替えたりしています。

超音波メーターは、使用量データを即時に閲覧したり、漏水アラートを受信することができます。この他、水資源を守る動きを背景に、水供給インフラのアップグレードが推し進められているという背景も導入を促しているようです。このような動きは同社のスマート水管理システムの受注に繋がっており、サンタフェ市の水道メーターに採用されるなどしています(サンタフェ市は、配水ネットワーク全体を把握できるクラウド型検針システムBEACONを採用し、全ての住宅・商業施設の水道メーターに取り付けました)。

良好な事業環境から業績も好調な推移が続く

水管理需要は、淡水不足と需要拡大を背景に水質管理にも及んでおり、同社では特に2020年以降はこの分野を買収によって強化を進めています。

2020年11月に水質監視システムの大手プロバイダs::can GmbHを、2021年1月に水質監視ソリューション及び有毒ガス検知器の大手プロバイダAnalytical Technology, Inc.(ATi)を買収しました。ATiの電気化学センサーとs::canの光学式水質監視装置を組み合わせた無試薬センサーによる水質監視が可能となり、同社は包括的な水質監視ソリューションを提供できるようになりました。

また、2023年1月にも配水・回収ネットワーク内で漏水暴露および圧力監視ソリューションを提供する英国のSyrinixを買収しており、スマート水管理能力がさらに強化されました。

業績は長年に渡って堅調で、過去20年間、売上はCAGR+7%で成長してきました。これがICT化の進展とともに水道スマートメーター需要、とくにAMIへのシフト需要が拡大してきたことで、過去3年間のCAGRは18%に上がります。買い替え需要による安定収益にAMIという長期的なトレンド要因が加わったこと、さらにそれによってSaaS売上が加わり拡大していることが成長を加速させていると考えられます。

特にセルラータイプのAMIメーターは、ソフトウェア接続率が100%を達成しており、採算性が高まっています。SaaS売上は2016年から2022年の間、45%のCAGRで拡大してきました。まだ売上全体の6%程度ですが拡大が見込まれ、それと共に利益成長を促すことになるでしょう。

足元の業績も好調です。2023年に入って半導体不足が緩和され、これまで生産して出荷できなかった溜まった受注分が出荷されているということもあって、大幅増を記録しています。

同社の売上を左右する水道業界の設備投資需要については増加傾向にあります。アメリカン・ウォーター・ワークス[AWK]やアメリカン・ステイツ・ウォーター[AWR]、エッセンシャル・ユーティリティーズ[WTRG]など、水道事業会社の設備投資額は2023年上半期に14~30%増を記録しました。

2024年は出荷が進み、受注残が解消されることで勢いが減速する可能性ありますが、需要環境は変わらず良好な状態が続くと予想されます。中長期的にも、IRAが支援する飲料水設備投資プロジェクト、その他スマートプロジェクトの進展を背景とした需要増の恩恵を享受できるポジションにあり、堅調な業績推移が期待できると思います。

2023年第3四半期のキャッシュフローも前年比増。自己資本率、流動比率も高水準

堅調な業績推移から、キャッシュフローも良好です。2023年第3四半期の3ヶ月間における営業キャッシュフローは前年比32.1%増の3100万ドル、フリーキャッシュフローは29.9%増の2900万ドルでした。

また、同社が以前から維持しているフリーキャッシュフローコンバージョンレート100%以上(純利益に対するフリーキャッシュフローの割合)については、第3四半期は109.4%と目標を達成しました。非現金項目である減価償却費、無形固定資産(のれん代)の償却費が多いことから、これらが戻し入れられた営業キャッシュフローは純利益を上回ります。

さらに資本支出も少ないことから、フリーキャッシュフローコンバージョンレートは数年間に渡って100%を上回って推移しています(2018年115%、2019年115%、2020年163%、2021年133%、2022年115%)。財務状況も健全です。2023年9月末現在、同社は1億6300万ドルの現金および現金同等物を保有しており、借入金はありません。自己資本比率は71.4%、流動比率3.28倍といずれも高い水準が維持されています。

堅調な業績と順調な利益基盤の成長、AMI需要を享受できるポジショニングなどが評価されているものと思われます。

【図表1】バッジャー・メーター年間配当推移(1991年~2023年)
出所:Bloombergより筆者作成
【図表2】BMIとS&P500の株価推移比較
出所:Bloombergより筆者作成
※ BMI株価は1980年7月1日を1とした数値