DX時代に対応可能な人材が求められている
これまでキャリアを積み重ね、スキルを磨いて実績を残してきた40代・50代にとって、経済産業省が推進しているリスキリングは、耳が痛い話かもしれません。
リスキリングとは、ビジネスモデルの変化などに対応するため、新しい知識やスキルを学ぶことです。デジタル技術やデータ活用などに対応できる人材の育成が活発になってきており、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進して、自社の競争力を高めようとする企業が増えています。
しかし、DXと無縁だった40代・50代にとっては、会社から急に畑違いのスキルを身につけてほしいと言われて戸惑ったり、気持ちが乗らなかったりしているかもしれません。
企業は社員の生産性を上げつつ、人材不足にも対応する必要があるため、在籍している40代・50代の社員を、今以上に有効活用しようとしています。
従来の人材育成を続けている企業が半数以上、リスキリングはこれから自分事に
株式会社リクルートが企業で働く人事担当者5048人に行った「企業の人材マネジメントに関する調査2023」によると、半数以上の企業が「従来の人材育成や能力開発の方法を見直す必要性がある」と感じています。
見直す必要のある理由のトップが、「仕事を遂行するために必要なスキルが多様になってきているため」、次に「従来のスキルでは仕事の場面で価値を出す事が難しくなっているため」でした。しかし、約半数の企業は見直しができておらず、能力開発費にかける費用が3年前と変わっていない企業が6割という状況です。
人事担当者はリスキリングが必要と感じていても、企業として見直しは思うように進んでいない実態が見えてきたことから、リスキリングが「自分事」になっていくのはこれからかもしれません。
リスキリングより先にやってくるかもしれない親の介護
40代・50代にとって、リスキリングよりも先にやってくる可能性があるのが親の介護です。
リスキリングを推進している経済産業省は、親の介護で離職しないためのガイドラインを2023年中に作成しようとしています。また、親の介護に直面する40代・50代社員が会社を辞めないよう、介護支援制度を充実させる企業も増えてきました。
会社を辞めずにすんだとしても、介護と仕事を両立させながら、これまでどおりの仕事の成果を上げるためには、生産性の向上が欠かせません。リスキリングにせよ、介護と仕事の両立にせよ、40代・50代はより生産性の高い仕事が求められているのです。
こうした社会情勢を敏感に感じ取っている人は、企業主導のリスキリングではなく、個人主導で行うリカレント教育、いわゆる学び直しを始めようとしていると思います。
介護離職によってキャリアチェンジ
リスキリングの必要性は感じてはいるが、何をしたらいいか分からないと思っている40代・50代の方に向けて、今回は私自身のキャリアチェンジについてお話したいと思います。
私は40歳のときに家族の介護で離職をせざるを得ない状況になりました。そのため、半ば強制的に学び直しをしながら、180度職種を変えた経験があります。
需要予測や在庫管理の仕事を20年近くやってきて、40歳以降も同じキャリアで食べていくつもりでいました。ところが祖母が子宮頸がんで倒れ、母が認知症になったことがきっかけで、介護離職することになったのです。
介護離職した直後の収入は、副業で書いていたブログの広告収入のみでした。これだけでは生活できなかったので、貯金を切り崩しながら、独学で文章の書き方の勉強をしました。そこから介護の本を出版するようになり、新聞やwebサイトで介護の連載の仕事を頂けるようになりました。
まさか40歳で介護が始まると思っていませんでしたし、これまでのキャリアとは無関係の物書きにキャリアチェンジするとも思っていませんでした。
今振り返ると、私自身は40歳で学び直しをしてよかったと思っています。40代・50代は親の介護をすることになる場合も多いでしょう。企業側も様々な取り組みをしていますが、状況によってはキャリアを再考する必要も出てきてしまうかもしれません。キャリアの幅を広げるためにも学び直しは必須と言えると思います。
介護の不安を学び直しのモチベーションに
企業がリスキリングを推進し、介護支援制度を充実させようとしているうちは、40代・50代社員の雇用は守ってもらえるかもしれません。しかし業績が悪化し、DXが進んで余剰人員が生まれ始めたときには、モチベーションの低い40代50代社員を雇っておく余裕はない場合もあるでしょう。
どんな状況においても自分の身を守れるのは、その時代に合った仕事に必要とされるスキルを身につけておくことだと思います。市場価値のあるスキルさえあれば、会社の業績に関係なく、また親の介護が始まったとしても、自分のスキルだけで食べていけます。
会社からリスキリングを推奨されている40代も、何を学び直したらいいか分からない50代も、突然始まるかもしれない親の介護という目の前の現実を想像してみてください。重い腰を上げて、学び直しを始めようという気持ちになるかもしれません。
私のように追いつめられてから学び直しをするのではなく、余裕のあるうちに学び直しについて考えておきましょう。