改めて考える、銀行の役割

今回のテーマは銀行セクターについて解説します。経済は企業を中心に回っています。製造業を例に取ると、企業は工場を建てて、機械を据えつけ、材料を仕入れて、社員を雇って、給料を支払い、交通費を清算したりしながらモノ作りに励みます。

ビジネスが軌道に乗って事業を拡張する必要があれば、設備投資を行います。その際に資金が企業の中に潤沢にあれば、それを使い、足りなければ銀行から資金を借り入れます。あるいは上場企業であれば、社債や株式を発行して資金を調達します。

日本に存在する企業のほとんどが株式を公開していない中小企業、あるいはさらに規模の小さな小型企業であるため、資金調達はほとんどの場合、銀行を通じて借入金でまかないます。ここに銀行の存在価値があります。

銀行の役割には大きく分けて、金融仲介機能、信用創造機能、資金決済機能の3つがあります。これらは「銀行の3大機能」と呼ばれており、各々が預金業務、貸出業務、決済業務と密接に関わっています。

中でも中核は預金業務、すなわち金融仲介機能です。銀行に預金する場合、預金者は銀行に対して預金という債権を持つことになります。反対に銀行は預金者に対して預金という債務を負うことになります。

それとともに、銀行が貸出を行う場合、銀行は借入者に対して貸出という債権を持ち、借入者は銀行に対して借入金という債務を負います。

これらの一連の契約(金融取引)を通じて、銀行は「預金」というローリスクな債務を、比較的ハイリスクな「貸出」という債権に交換していることになります。

その反対に借り入れる側は、預金というローリスクな債権を、貸出というハイリスクな債務に変換することで資金を手にすることができます。

銀行最大の収益源、利ザヤが成り立つ仕組み

資金の貸出に先立って、銀行は貸出先(借入者)の信用情報を細かく集めて調査することになります。また、貸出を行った資金がきちんと返済されるか、貸出を実行した後も銀行は借入者の行動をチェックして、銀行に借入者の情報を蓄積するように努めます。

借入者の情報は次々に更新されていくので、これを銀行の情報生産機能と呼びます。情報生産機能を駆使して、まとまった金額の貸出を広く行うことで、銀行は収益性を高めていきます。しかし、現在の日本のように趨勢(すうせい)的な金利低下の局面にあると、銀行の利ザヤ(貸出金利と預金金利の開き具合)は縮小傾向に陥らざるを得ません。

銀行の貸出金利は、次のような要因で決まります。

 

銀行貸出金利=資金調達コスト+信用コスト+競争要因

 

資金調達コストは資金調達原価とも呼ばれ、預金金利などの支払金利、人件費や物件費などの経費から成り立ちます。信用コストは、貸出を回収できない場合に備えた貸倒引当金などを指します。

これらを合算した上で、実際の貸出金利は銀行間の競争によって決まります。ここでも需要と供給の関係に支配されています。

銀行にとって貸出金利と資金調達コストの差、スプレッドが利ザヤです。これが銀行にとって最大の収益源となります。

 

貸出利ザヤ=貸出金利-資金調達コスト=信用コスト+競争要因

 

上の図式から見てとれるように、銀行経営にとって利ザヤは極めて重要な収益の要素ですが、それは信用コストと競争要因によって完全に決まってくるのです。

世界と比べ利ザヤ水準が低い日本、その背景と今後の傾向

世界を見まわしても日本ほど銀行の貸出利ザヤの低い国はありません。この状態がすでに10年間は続いています。

インフレの高まりで現在の金利上昇が始まる前、2021年初めの時点で、欧米各国の貸出利ザヤは2%強の水準でした。その時に日本だけは1%台前半にとどまっていました。先進国中で最も低い利ザヤの水準です。日本では銀行の貸出金利そのものが低い上に、利ザヤも低い状態にとどまっています。

貸出利ザヤが低い理由として考えられるのが、経済の低迷が長期化している点です。貸出ニーズが少ないことが金利水準の低い理由の1つと見られますが、それとともに貸出引当金などの信用コストが低く抑えられていることも挙げられます。

銀行は融資先が経営不振に陥り不良債権化となるリスクに備えて、貸倒引当金を積み立てます。しかし、かつてバブル崩壊によって膨大な不良債権に苦しめられた経験から、貸出を回収できないリスクを小さくする意識が働き、それが貸倒引当金を積む必要性を低下させていると見られます。したがって信用コストは低くなり、それが貸出利ザヤを低くしているとも指摘されます。

日本の銀行は伝統的にリスクを回避する傾向が強く、信用リスクの高い企業や個人には貸出を行わないとされています。日本は安全で回収が十分に見込める企業や個人にだけ、低い金利で貸し出す傾向が強いとされてきました。

それに対して米国をはじめ海外の銀行は、比較的リスクが高い企業や個人に対しても、高金利で貸出を実行する傾向があります。国際金融危機の原因となったサブプライム・ローンはその典型例です。そのために貸倒引当金など信用コストは高めになります。

そして銀行の貸出金利は、原則として「参照金利」を基準に決められます。日本における参照金利は、短期プライムレートとTIBOR(東京銀行間取引金利)です。

短期プライムレートは、2009年から2023年の現在まで、一貫して1.475%に据え置かれたままの状態です。短期プライムレートは各銀行が譲渡性預金証書(CD)発行利回りなどの資金調達コストを参考に決めており、そのCD発行利回りは2013年に0.1%を下回って以来、一貫して低下しており、現在も0.001%にとどまったままです。

人類史に刻まれる日本の超低金利の影響が、このあたりにくっきりと浮かび上がります。これによって貸出金利も一貫して低下傾向をたどっており、日銀が公表する「貸出約定平均金利」によれば、2023年8月時点における国内銀行の平均貸出金利は、短期が0.377%、長期が0.830%、総合で0.601%となっています。

月間で多少のばらつきはありますが、2007~2008年にかけて起こった世界的な金融危機、いわゆるリーマン・ショック以降は、貸出金利はほぼ一貫して低下基調をたどっています。とりわけ2019年以降は短期の貸出金利がさらに低下することとなりました。

2016年に日銀がマイナス金利政策を導入して以来、銀行はこれ以上貸出金利が低下すれば、採算が取れないという水準に達していると見られます。

日本ではすでに20年以上にわたり、日銀によるゼロ金利、マイナス金利政策が採られてきました。このため、コール市場の金利もゼロ、あるいはマイナスで推移しています。

日銀のマイナス金利は「リバーサルレート」とも呼ばれ、金利が過度に低下することで銀行が逆ザヤとなり、金融緩和の目的とは反対にかえって銀行による金融仲介機能が低下することになるとも見られています。

貸出債権の利ザヤ圧縮に苦しんでいる銀行にとって、インフレの高進により日銀がいわゆる「出口戦略」、金融政策の変更に踏み切れば、長短金利が上昇して貸出金利に適正な利ザヤが確保されることになります。すでにそのような思惑が折に触れて株式市場では浮上しています。

政策金利の引き上げは銀行経営にとって明らかに朗報となるでしょう。銀行セクターの行方に目を凝らしておきたいと思います。

日銀金融政策による今後の成り行きにも注目したい銀行関連銘柄

三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)

日本最大の金融グループ。銀行最大手の三菱UFJ銀行は、かつての三菱銀行、東京銀行、三和銀行、東海銀行という都銀4行が合体して誕生した。そこに三菱信託銀行、日本信託銀行、東洋信託銀行、東海信託銀行が統合された三菱UFJ信託銀行、それに三菱UFJモルガン・スタンレー証券、三菱UFJニコス(カード)、アコム(8572)(消費者金融)などが結集し、まさに一大金融グループを形成している。タイ、ベトナムに積極展開もしている。

【図表1】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年10月27日時点)

三井住友フィナンシャルグループ(8316)

3メガバンクの一角を占める。太陽神戸銀行と三井銀行が合併して誕生したさくら銀行と、住友銀行が統合して発足した。ほかにも平和相互銀行、わかしお銀行(旧・太平洋銀行)も統合に参画。現在はSMBC日興証券(証券)、SMBCコンシューマーファイナンス(プロミス、消費者金融)、三井住友ファイナンス&リース(リース)、三井住友カード(カード)、日本総合研究所(リサーチ)を傘下に有する。カードとスマホのアプリを連携した「OLIVE」は若い世代を中心に支持を集める。

【図表2】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年10月27日時点)

七十七銀行(8341)

本社は仙台市青葉区。宮城県を地盤とする東北最大の地銀で、1878年に設立された第七十七国立銀行が母体となっている。東日本大震災の復興が進み、宮城も含めて東北各県には工場建設も増加した。資金需要も伸び、今期は最高益更新の見通し。中期経営計画で掲げた2026年3月期の純利益210億円の目標はすでに前倒しで達成しており、この秋に新たな中期経営計画の策定を考えている。財務体質は良好。PBRは0.4倍とかなり低水準にあり、割安な位置にある。

【図表3】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年10月27日時点)

山陰合同銀行(8381)

「ごうぎん」の愛称で知られる鳥取、島根で預金高1位の有力地銀。中国地方の広島、岡山にも展開する。銀行業務以外の役務提供に力を入れており、コンサルティングは取引先企業の問題解決に尽力している。DX、人材紹介、省人化対策など中小企業の弱点をサポートするビジネスが伸びさらにサービスを拡大。それが軌道に乗って今期も最高益更新を連続する見通し。鳥取県の平井伸治知事は全国知事会の会長を務め、アイデアマンでも知られる。鳥取県に若い世代の定住を招く方策を次々と打ち出す。PBRは0.4倍台で低水準。配当利回りは3%台後半と割安な位置にある。

【図表4】週足チャート
出所:マネックス証券ウェブサイト(2023年10月27日時点)

参考文献:
『超金融緩和からの脱却』(2016年、日本経済新聞出版社)
『入門銀行論』(2023年、有斐閣)
『エッセンシャル銀行論』(2007年、中央経済社)