「強過ぎる米景気」を受けた米ドル高は続くのか
米長期金利の10年債利回りは、ついに2007年以来となる5%程度まで上昇してきた(図表1参照)。背景には、足元の米景気が「強すぎる」可能性の影響が大きいだろう。10月26日に、7~9月期の米実質GDP(前期比年率)速報値が発表されるが、大方の見方は4%以上といった高い数字となりそうだ。
定評のある予測モデルのアトランタ連銀、GDPナウが10月18日更新した最新予想は5.4%。「成熟した先進国」である米国の四半期成長率が5%以上となるのは、2008年リーマン・ショックや2020年コロナ・ショックなど大混乱期で数字が激しく乱高下した局面以外では極めて珍しいことだ。
こうした「強すぎる米景気」の可能性を受けた米金利の大幅な上昇により、日米金利差米ドル優位も拡大が続いている。この間の関係を前提にすると、日米10年債利回り差米ドル優位拡大はすでに、米ドル/円が151円という2022年10月に記録したこの間の米ドル高値を大きく上回ってもおかしくないことを示すものとなった(図表2参照)。
為替介入への警戒感や中東リスク、追加利上げの必要性低下発言などで米ドル高の鈍化か
ただ、最近はそうした米金利上昇および日米金利差拡大に対する米ドル高の追随が鈍くなってきた印象もある。その一因は、日本の通貨当局による円安阻止介入への警戒感だろう。また、すでに為替市場のポジションはかなり米ドル買い・円売りに傾斜した可能性があった(図表3参照)。要するに、米ドル買い・円売りの「行き過ぎ」懸念も強くなっていた。
そうした中で、ここに来て中東情勢への懸念などから新たにリスクをとることに慎重なムードが広がってきた。このためすでに大きく米ドル買い・円売りに傾斜したポジションの中で、さらに米ドル買い・円売りに動くことは控え、むしろポジションの手仕舞いを始めたことにより、米金利上昇への米ドル高の反応が鈍くなった可能性は考えられる。
また、最近FOMC(米連邦公開市場委員会)関係者は、米金利の大幅上昇により追加利上げの必要性が低下したとの認識を相次いで示した。これは、市場金利の大幅な上昇が、先行きの景気を減速させる役割になっているという意味でもあるだろう。
こうしたことから、為替相場も、米金利上昇はすでにこれまでの「強すぎる米景気」を受けた結果に過ぎず、むしろそんな米金利上昇によりこの先米景気が減速に向かうリスクへの警戒から、米金利上昇への米ドル高の反応が鈍くなってきた可能性も考えられなくない。
また、一部にはこの米金利の大幅上昇は、「強すぎる米景気」を反映しただけでなく、米財政赤字拡大を嫌気した「悪い金利上昇」の面もあるため、米ドル高の反応が鈍くなっているという見方もある。