10月2日から2023年「ノーベル賞」が開幕

2023年のノーベル賞の発表シーズンがやってきた。来週10月2日~9日は発表が相次ぐ「ノーベル賞ウィーク」となる。日本人の受賞に期待したい。

10月2日に生理学・医学賞、3日に物理学賞、4日に化学賞、5日に文学賞、6日に平和賞、9日に経済学賞の発表が行われる。

日本人の受賞は、直近では2021年に真鍋淑郎氏が物理学賞を受賞したが、2022年はなかった。真鍋氏は二酸化炭素が地球温暖化に影響することをいち早く問題提起し、地球の気候についてコンピュータを用いてシミュレーションし、気候変動の予測に関する研究が評価された。

注目のノーベル賞、日本人の受賞復活なるか

ノーベル賞を占う上で、その前哨戦として注目されるのが「クラリベイト・引用栄誉賞」だ。これは英国の学術情報会社クラリベイト・アナリティクスが、世界の研究者が発表した約5800万本の研究論文などの分析を元に、ノーベル賞の受賞が有望とみられる研究者を発表するもの。これまでに「クラリベイト・引用栄誉賞」に選出された研究者のうち、71名が実際にノーベル賞を受賞している。

2023年は9月19日に、23名が発表された。このうち、日本人は2名が選出されている。ノーベル生理学・医学賞の有力候補として筑波大学・国際統合睡眠医科学研究機構の柳沢正史機構長、ノーベル化学賞の有力候補として川崎市産業振興財団の副理事長でもある、片岡一則ナノ医療イノベーションセンター長である。

柳沢氏は睡眠の仕組みを解き明かす神経科学の基礎研究を行っている。注目されている功績が睡眠の制御に関わる「オレキシン」という物質を発見したこと。オレキシンは脳の「視床下部」という場所で作られ、神経からの刺激を伝える物質だという。睡眠や覚醒、食欲などに関わっている。

オレキシン受容体拮抗薬として不眠症治療薬が実用化されており、脳の覚醒を促すオレキシンの受容体を阻害することで脳を睡眠の状態にさせることができる。2020年6月にエーザイ(4523)が「デエビゴ」という商品名で発売している。

片岡氏は「ナノマシン」と呼ばれる小さな粒に薬を包み込んで体内の狙った組織に取り込ませる技術を開発した。ナノマシンの大きさは2万分の1から10万分の1ミリメートルほどの小ささである。極小であることから、体が異物として認識しないので、薬を効率よく運べるようになった。体内の必要な場所に必要な分だけ薬を届ける「ドラッグ・デリバリー・システム」(DDS)といわれる技術だ。

片岡氏はグロース市場に上場しているNANO MRNA(ナノ エムアールエヌエー)(4571)の創業者でもある。現在も技術発明者として社外取締役を務めている。同社は旧社名ナノキャリアで、当時は抗がん剤分野のDDSで先行していた実績を有している。現在ではDDSから事実上撤退しているが、ノーベル賞受賞となれば、技術が見直される可能性もある。

ちなみに、2021年のクラリベイト・引用栄誉賞は大阪大学の岸本忠三特任教授、量子科学技術開発研究機構の平野俊夫理事長(当時)、中部大学先端研究センターの澤本光男特任教授が受賞した。

岸本氏、平野氏はともに医学生理学賞の候補で、体の免疫で重要な役割を担う「インターロイキン6」を発見。中外製薬(4519)の関節リウマチ治療薬「アクテムラ」の開発に繋がった。

澤本氏は化学賞の候補で、複数の分子を思い通りの構造や機能を持つように繋ぎ合わせる「精密ラジカル重合」という手法を確立したことが評価されている。合成ゴムなどの高分子を合成する際などに使われるという。

株式市場が期待するノーベル賞関連銘柄

これ以外で株式市場との関連が期待されるのは、医学生理学賞では京都大学の森和俊教授だろう。細胞内の小胞体と呼ばれる部分に異常なタンパク質がたまったことを検知するセンサー分子(UPR)を世界で初めて発見し、「米国のノーベル賞」と言われるラスカー賞を2014年に受賞している。がんや糖尿病、パーキンソン病への応用などが期待されるという。アステラス製薬(4503)が米企業とUPRで提携している模様だ。

物理学賞では、名城大学の飯島澄男終身教授がカーボンナノチューブの発見により毎年のように候補に挙がっている。カーボンナノチューブは炭素から構成され、重さはアルミニウムの半分であり、しなやかながら強度は鋼鉄の数10倍といわれる。テニスラケット、ゴルフクラブ、自転車のフレームなどで実用化されている。株式市場の観点で見れば、日本ゼオン(4205)、GSIクレオス(8101)などが関連銘柄となるだろう。飯島氏は元日本電気(NEC)(6701)の研究員でもある。

化学賞では桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授。「ペロブスカイト」と呼ばれる結晶構造を用いた太陽電池を考案したことが知られている。発光層で厚みがあるシリコン系に比べて、極めて薄いため、軽量で曲げることもできる。国内でも建物や窓に活用できるのではないかとして、カーボンニュートラルで注目度が上がっている。関連銘柄は東芝※(6502)や積水化学工業(4204)、ホシデン(6804)、原料のヨウ素では世界シェア15%の伊勢化学工業(4107)の他、K&Oエナジーグループ(1663)などがある(※東芝は2023年9月29日現在、監理銘柄(確認中)となっている)。

文学賞ではこれも村上春樹氏が毎年候補になっている。書店の丸善CHIホールディングス(3159)、文教堂グループホールディングス(9978)の株価が、発表前に動意付く傾向がある。